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誰にとっても深刻、「健康格差」社会

┃誰にとっても深刻、「健康格差」社会

『健康格差』
あなたの寿命は社会が決める
(NHKスペシャル取材班著、講談社現代新書)

生まれ育った家庭環境や地域、就いた職業や所得などが原因で、病気のリスクや寿命などに格差が生じていることが分かってきている。気付かぬうちに進む、こうした「健康格差」は日本社会にとって深刻な問題になる、と警鐘を鳴らすのが『健康格差/あなたの寿命は社会が決める』(NHKスペシャル取材班著、講談社現代新書)。

本書では、「健康は自己管理するもの」「健康は自己責任で解決すべき」という日本社会に根強い風潮が、「健康格差」の解消にとって大きな壁となっている、と指摘する。健康管理ができないのは自業自得、と「健康格差」を自己責任論でこのまま放置すれば、医療費や介護費が膨れ上がり、社会保障制度の切り下げや増税、という形で国民全員に大きな「しっぺ返し」が返ってくる、と警告する。

「健康格差」問題を個人の責任にせず、社会全体で解決していくためにはどんな取り組みが必要か。国を挙げての減塩プロジェクトにより「8 年間で心筋梗塞と脳卒中の死亡率を激減」という効果が出ているイギリスの例、住民の野菜摂取量を増やすことに成功した東京都足立区の例など、「健康格差」解消の効果が出ている地道な取り組み事例を紹介している。

『ルポ 不法移民』
アメリカ国境を越えた男たち
(田中研之輔著、岩波新書)

大統領選挙中から「不法移民は強制送還させる」と主張してきたトランプ大統領が就任し、アメリカ移民政策についての報道が増えてきている。不法移民とは誰なのか?強制送還とは何を意味するのか?彼らの労働と生活の実態を明らかにしていくのが、『ルポ 不法移民/アメリカ国境を越えた男たち』(田中研之輔著、岩波新書)である。

本書は、社会学者である著者による、民族の生き方や働き方を記述する社会調査の手法のひとつ「エスノグラフィー」という方法を用いて、アメリカに暮らす日雇い労働者のコミュニティーや生活を記録するという研究報告でもある。

著者は2年間にわたるフィールドワークを通じて、中南米諸国からアメリカにやって来た出稼ぎ労働者たちと、一緒に働き食事を共にするという経験をしている。「不法移民」とひとくく りにされる彼らが、いつどうやってアメリカに来て、どんな仕事をして、どれくらい稼いでいるのか。形式的なアンケート調査などでは知り得ない、彼らの日常や生の声を伝えている。

| 人工知能と人間の選択

人工知能とAIという話題で最近よく耳にするのが「シンギュラリティ」(特異点)という言葉である。「シンギュラリティ・ポイント」すなわち「2045年頃、“人類の知性を超越する非生命的な知性”が出現し、想像を絶するほど社会が大きく変わる」というのがアメリカの未来学者による予想である。『人工知能は資本主義を終焉させるか/経済的特異点と社会的特異点』(齊藤元章・ 井上智洋著、PHP新書)では、AIが人類の能力を超えるとどのような社会が到来するのか、「シンギュラリティ・ポイント」の1段階手前に起きる「社会的特異点」とは何か、について解説する。

なお、著者のひとりである齊藤氏は、スパコン・人工知能エンジン開発者でありベンチャー企業の社長で、本書の刊行後12月5日に、「助成金詐欺」の疑いで逮捕されたという報道があり、IT業界を始め各界に大きな衝撃が走っている。

『おそろしいビッグデータ/超類型化AI社会のリスク』(山本龍彦著、朝日新書)は、憲法学者の著者による、「ビッグデータ社会」の影の部分について問題提起する1冊。ビッグデータとAIの発展によって、私たちは多くの恩恵を受け、便利な生活を手に入れると期待している。その一方で、人事採用、融資、保険、教育、といった人生の重要な場面で、AIに「評価」され、あるいは「排除」される危険も考えなくてはいけない。ビッグデータやAIがその使われ方によっては、「すべて国民は、個人として尊重される(憲法第13条)」という重要なものを脅かす恐ろしいものになるのでは、と警告する。

『人工知能の「最適解」と人間の選択』
(NHKス ペシャル取材班著、NHK出版新書)

『人工知能の「最適解」と人間の選択』(NHKス ペシャル取材班著、NHK出版新書)でも、AIに人の一生を左右する判断を委ねても良いのか、という疑問を投げかける。AIが導き出す「最適解」は確かなプロセスで出されたものなのか。AIが 出した答えに納得できない場合、どうすれば良いのか。人工知能の進化をどこまで許し、どこから許さないか、真剣に議論すべき時が来ている。しかし、残された時間は少ない、と訴えている。

※2017年11月刊行から

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連想出版編集部が出版する ウェブマガジン「風」編集スタッフ。新書をテーマで連想検索する「新書マップ」に2004年の立ち上げ時から参加。 毎月刊行される教養系新書数十冊をチェックしている。 ウェブマガジン「風」では新書に関するコラムを執筆中。