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テイスティングの言い回しを翻訳すると?〜技あり! 機械翻訳達人への道 第18回

機械翻訳の精度は飛躍的に向上。でも、よく読むと「あれれ?」な部分も。ちょっとしたコツで見違えるほど自然な日本語に直せる技を紹介します。

第18回 テイスティングの言い回しを翻訳すると?

【今回の例文】

Tasting Notes: Ransom Old Tom Gin opens with seductive aromatics of juniper berries and coastal forest, set off by apothecary spice notes of cardamom and angelica. The palate is rich and silky, with malt flavors punctuated by lively citrus zest and heady exotic notes of coriander and teak. The gin continues with suppleness and power, with the warmth and richness of the malt carrying clean, focused botanicals on a long, elegant finish.

(出典::Ransom Spiritsホームページ)

【機械翻訳】

テイスティングノート ランサムオールドトムジンは、ジュニパーベリーと海岸の森の魅惑的なアロマで始まり、カルダモンとアンジェリカの薬草のようなスパイスの香りが引き立てます。モルトの風味に柑橘類の皮、コリアンダーやチークなどのエキゾチックな香りが加わり、リッチでシルキーな味わいです。モルトの温かみとリッチな味わいが、クリーンでフォーカスされたボタニカルノートを乗せて、長くエレガントなフィニッシュへと続く。 (DeepL翻訳)

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【修正後】

テイスティングノート:「ランサム・オールド・トム・ジン」を口に含めば、ジュニパーベリーと海辺の森を思わせる官能的なアロマと共に、カルダモンとアンジェリカの独特な薬草系のスパイシーな香りが広がります。口当たりは濃厚で滑らか。麦芽風味の中にも、すっきりとした柑橘類の果皮とコリアンダーやチークのエキゾチックな香りが感じられます。しなやかで力強い味わいが、麦芽の持つ温かみ、芳醇さと相まって、さわやかなボタニカルのフレーバーを引き立て、余韻が長く続く上品なフィニッシュを演出します。


今回はスピリッツの一種、ジンの商品説明を取り上げます。テイスティング用語には独特な言い回しがあり、直訳すると魅力が半減してしまうことも。舌だけでなく、耳や目でも味わえるように、訳語を工夫しましょう。

今回のポイント✅

1. 「apothecary spice notes」とは?

noteは香り(香調)の種類を表すときに使われます。apothecaryは本来、薬を調合する薬剤師を指しますが、ここでは薬用ハーブのアンジェリカを表す「薬草」の意味合いになります。

2. Richの訳に変化を

原文にはrichが 2回出てきており、機械翻訳では両方とも「リッチ」と訳されていますが、それでは単調ですね。修正訳では、味わい深さを強調するために「濃厚」、「芳醇」としました。

3. 解なテイスティング表現こそ腕の見せどころ

「carrying clean, focused botanicals」の訳ですが、機械翻訳ではお手上げのようです。修正訳では「さわやかなボタニカルのフレーバーを引き立て」としました。

まとめ

スピリッツファンにはおなじみのフレーズも、わからない人には難易度が高いかもしれません。次回も引き続き同じテーマを取り上げます。

フリーランス翻訳家・通訳。外務省派遣員として、92年から95年まで在シアトル日本国総領事館に勤務。日本へ帰国後は、政党本部や米国大使館で外交政策の調査やスピーチ原稿の執筆を担当。キヤノン元社長の個人秘書、国連大学のプログラム・アシスタントなどを経て、フリーに転身。2014年からシアトルへ戻り、一人娘を育てながら、 ITや文芸、エンタメ系を始めとする幅広い分野の翻訳を手がける。主な共訳書は、金持ち父さんのアドバイザーシリーズ『資産はタックスフリーで作る』など。ワシントン州のほか、マサチューセッツ、ジョージア、ニューヨーク、インディアナ、フロリダにも居住経験があり、米国社会に精通。趣味はテニス、スキー、映画鑑賞、読書、料理。