ネルソン・マンデラの軌跡をたどる
「マンデラ:ザ・オフィシャル・
エキシビション」
シアトルの歴史産業博物館(MOHAI)では現在、マンデラ家公認の巡回展「マンデラ:ザ・オフィシャル・エキシビション」が9月7日(日)まで開催されています。
取材・文:中島雅紘
マンデラとは誰か
そもそも、ネルソン・ホリシャシ ャ・マ ン デ ラ(1918 年 ~2013年)を知っているだろうか。筆者は高校時代にその存在を知り、生き方の指針として大きな影響を受けた。南アフリカのアパルトヘイト体制と闘った象徴的指導者で、27年間に及ぶ獄中生活を経て、1993年に当時の大統領フレデリック・ウィレム・デクラーク氏とともにノーベル平和賞を受賞。翌1994年には同国初の黒人大統領として民族和解と民主化を主導した。退任後も教育・保健・人権分野で活動を継続し、国連は彼の誕生日である7月18日を「ネルソン・マンデラ国際デー」と定め、世界中に奉仕活動を呼びかけている。
マンデラの家系図
展覧会の見どころ
本展はゲイツ財団やボーイング社など地元企業の支援を受け、ワシントン州ブラック・ヘリテージ協会のステファニー・ジョンソン・トリバー会長が展示制作に協力している。展示はマンデラの生家のレプリカに始まり、当時の街並みや監獄を再現したセットの中に、東ケープ州ムベゾ村の遺品、ロベン島で使用した工具、27年間の獄中で家族に宛てた手紙など、300点を超える実物資料が並ぶ。未公開映像と没入型音響が来館者を時代の渦中へと誘い、マンデラが重視したウブントゥ(他者への思いやり) を体感的に学べる構成となっている。出口に設置されたアクション・プレッジ・ウォールには、展示を通じて得た気付きを具体的な行動宣誓として書き残すことができる。
当時、当然とされていた黒人差別の標識
シアトルとの深い結び付き
「なぜシアトルでマンデラ展?」と不思議に思う人もいるだろう。実はシアトルは全米有数の反アパルトヘイト運動の拠点だった。ワシントン大学などの学生団体「反アパルトヘイト学生運動(Students Against Apartheid)」は大学基金の南アフリカ関連投資からの撤退を実現し、市議会は石油大手シェル製品の不買決議を可決。年金基金も全面撤退を決定するなど、市民・自治体・労働組合が連携した草の根運動は全国的なモデルとなった。こうした連帯を背景に、1999年12月、マンデラ夫妻はシアトルを公式訪問し、ボーイングフィールド(キング郡国際空港)では約800 人の児童が歓迎し、ワシントン大学での講演では「ウブントゥを都市外交の基盤に」と訴えた。本展では、その3日間の写真や新聞見出しも展示され、地域史の一部として再解釈されている。
マンデラの生き様が至るところに記されている
今こそ「ウブントゥ」を行動に
分断やヘイトが顕在化する現代において、「ウブントゥ」 を掲げ、差別と闘い続けたマンデラの足跡に触れる意義は大きい。本展は歴史的事実を学ぶ場であるだけでなく、「自分に何ができるか」を問い直すきっかけを与えてくれる。展示を見終えた後は、アクション・プレッジ・ウォールにあなた自身の宣誓を書き込み、日常生活で小さな一歩を踏み出してみてほしい。シアトルに住む私たちがかつて示した連帯の精神を、今再び行動として体現する機会となるだろう。
アパルトヘイトに対抗するべくマンデラは各国を巡った
場所: Museum of History & Industry (MOHAI)
860 Terry Ave. N., Seattle, WA 98109
料金:一般 $25、65歳以上$20、学生$19、14歳以下無料 ※毎月第1木曜は無料
問い合わせ:☎︎206-324-1126、information@mohai.org
詳細:https://mohai.org/exhibits/mandela-the-official-exhibition