6月12日に国務省より発表があって以来、TVでも報道されたパスポート・ビザ・システムのエラーによるビザ発給の遅延のニュースですが、実際の影響はどれほどの範囲だったのでしょうか。
ビザ発給の手続きは、実は申請するビザの種類によって、いくつかのステップに分けられます。現在日本にいる方が米国のビザ申請をする場合、最終的にビザ発給を受ける場所は在日米大使館・領事館です。しかしビザの種類によっては、米大使館・領事館に申請する前に米国内の移民局でのビザ申請をし、その認可を取得する必要があるものもあります。通常就労ビザといわれる種類のビザ(H-1B、H-2B、L-1A、L-1B、R、O、Pなど)は、まず移民局での認可を取得しなければ、米大使館・領事館でのビザ発給を受けることができません。そうではなく、移民局での審査を経ずに直接米大使館・領事館に申請できる種類のビザ(E-1、E-2、F、Jなど)もあります。今回システム・エラーが起こったのは、国務省の領事部 (Bureau of Consular Affairs) が米国人への海外でのパスポート発行および外国人へのビザ発給に使用するCCD (Consular Consolidated Database) というシステムのハードウェアにおいてでした。したがって、「ビザ発給の遅延」と一言でいっても、実際に影響を受けたステップは、米大使館・領事館でのビザ査証(ビザ・スタンプ)を取得するステップのみでした。ですので、これらエラーによる遅延は、実は移民局での審査にはまったく影響を与えていないのが実情です。また、このエラーによって米国人向けのパスポート発行でも遅延は発生していますが、これも影響を受けたのは海外でのパスポート発行業務のみで、米国内でのパスポート発行には全く影響を与えていません。
次に具体的に影響を受けた申請に関してですが、パスポート発行は5月26日以降に米大使館・領事館になされた申請に関して、ビザ発給は6月9日以降に米大使館・領事館にてインタビューされた申請に関して遅延の影響を受けたようです。また、今回のCCDエラーは、セキュリティ・チェックを行う重要なプロセス部分であったため、この部分をスキップしてのパスポート発行・ビザ発給は法律上行えず、そのためシステム・エラーの影響が直接手続きの遅延につながったようです。また、このエラーは、特定の国・ビザカテゴリーに限ったものではなく、全世界の米大使館・領事館が影響を受けたものでした。
このエラーは6月22日ごろから徐々に復旧しはじめ、同日には全世界の22の大使館・領事館でのCCDアクセスが復旧され、23日には39の大使館・領事館で復旧、24日には50の大使館・領事館で復旧、25日には165の大使館・領事館で復旧、そして29日までには、全世界の大使館・領事館にて復旧がなされました。6月9日から19日までの間に、335,000件のビザ発給が保留となっていましたが、29日の発表時点では、このうち300,000件は発給が完了しています。したがって、現時点では、ビザ発給の遅延の影響はすべてなくなり、従来通りに戻ったと考えてよいでしょう。
[知っておきたい移民法]