小児科医が臨床経験と知見をもとに、子育て中の皆さんの不安や迷いに寄り添う情報をお届けします。
第15回 子どもの睡眠をどう整える?
「夜中に何度も起きる」「抱っこや添い寝でなければ眠らない」と悩む保護者は少なくありません。今回は、子どもの睡眠について医学的な視点からお話しします。
睡眠は成長と発達を支える時間
そもそもなぜ睡眠が大切なのでしょうか。睡眠は子どもの脳や体の成長を支え、日中に得たさまざまな経験や情報を整理するための大切な時間です。睡眠中には体の成長に関わるホルモンも分泌されます。睡眠が不足すると、日中に眠そうにするだけでなく、イライラしやすくなる、感情の切り替えが難しくなるといった様子が見られることがあります。幼い子どもは眠気をうまく言葉で表せず、かえって興奮して動き回ることもあります。また、子どもがなかなか眠らない、日中の機嫌が悪いといった状態が続くと、保護者やきょうだいも睡眠不足になり、家族全体のストレスにつながることがあります。子どもの睡眠を整えることは、穏やかな家庭生活を支えるうえでも大切です。
子どもの睡眠の変化
生まれたばかりの赤ちゃんは昼と夜の区別がまだはっきりしていません。授乳と睡眠を短い間隔で繰り返すため、夜中に何度も起きるのは自然なことです。生後4カ月ごろになると睡眠と覚醒のリズムが少しずつ整い始め、夜にある程度まとまって眠る子どもも増えてきます。アメリカではこの時期から、睡眠トレーニングについて家族と相談を始めることがあります。もちろん、発育や授乳の状況、病気の有無などによって適切な時期は異なります。生後4カ月になれば、すべての子どもが睡眠トレーニングを始めなければならないということではありません。ただし、比較的早い時期から睡眠の習慣を整えることで、子どもが自分で眠りにつく力を育みやすくなると考えられています。
また、生後8カ月ごろには「人や物は見えなくなっても存在している」と理解する「対象永続性」が育ってきます。それに伴い、保護者の姿が見えなくてもどこかにいることが分かるようになり、そばにいないことを意識して寂しがったり、激しく泣いたりすることが増える場合があります。この時期には、それまで比較的スムーズだった寝かしつけが難しくなることもあります。
睡眠トレーニング
睡眠トレーニングにはさまざまな方法があります。たとえば、子どもが泣いてもすぐに抱き上げず、声をかけたり背中をさすったりして安心させながら、見守る時間を少しずつ延ばしていきます。また、就寝までの決まった流れ、いわゆる就寝前のルーティンをつくることも有効です。食事や入浴を済ませた後に部屋を少し暗くする、決まった音楽を流す、絵本を読むといった行動を、毎日できるだけ同じ順番で繰り返します。こうした流れを通して、子どもは「これから眠る時間だ」と少しずつ理解していきます。できれば完全に眠ってしまう前に寝床へ移し、自分で眠りにつく経験を重ねていくことが理想ですが、子どもの気質や家庭の生活によって、取り組みやすい方法は異なります。それぞれの家庭で無理なく続けられる方法を、小児科医とも相談しながら決めていくとよいでしょう。
添い寝によるリスクを理解する
最後に、睡眠をめぐる日米の文化の違いにも触れておきましょう。アメリカの小児医療では、乳児が大人と同じベッドや布団などの寝床で眠る「ベッドシェアリング」は推奨されていません。乳幼児突然死症候群(SIDS:Sudden Infant Death Syndrome)や窒息など、睡眠に関連する乳児死亡のリスクが高まるためです。特に、柔らかい寝具や枕、厚い掛け布団がある環境や家庭内での喫煙などは、睡眠中の突然死や窒息のリスクと関連することが知られています。そのため特に生後6カ月ごろまでは、こうした危険をできる限り避けた睡眠環境を整えることが重視されています。
一方、日本では赤ちゃんや幼い子どもと添い寝をする家庭が多く、育児文化の中で長く行われてきたことも事実です。日本以外にも、添い寝が文化的に根付いている国や地域があります。そのため医療者には、添い寝を一方的に否定するのではなく、医学的なリスクを丁寧に伝えたうえで、家族の考えや文化的な背景も尊重しながら、より安全性の高い睡眠環境を一緒に考えていく姿勢が求められます。
睡眠トレーニングを始めても、すぐにうまくいくとは限りません。むしろ、思うように進まないことのほうが多いかもしれません。また、子どもは発達の変化や体調によって、いったん眠れるようになった後に、再び夜中に起きるようになることもよくあります。睡眠環境を整える際は完璧を目指しすぎず、子どもと保護者の双方が無理なく続けられる環境を少しずつ整えていくことが大切です。家族全員が疲れ切ってしまうほど睡眠の問題が続いている場合には、家庭だけで抱え込まず、小児科医に相談してください。
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