壮大な旅を描く舞台「パイの物語」
取材・文:白木満海
2023年のトニー賞で3部門を受賞した話題作が、シアトルのパラマウント・シアターで4月15日から20日まで上演されました。原作はヤン・マーテルのベストセラー小説で、映画化もされています。
シアター内の天井装飾と重厚な建築が美しい
緻密な舞台演出と驚異的なパペット操作(操り人形)、そして観客の想像力を引き出す力強いストーリーテリングによって、今回、「パイの物語」は舞台上で新たな姿を披露した。物語の主人公は、16歳のインド人の少年パイ(Pi)。彼は家族と動物たちを乗せた貨物船でカナダに向かう途中、太平洋のど真ん中で船が沈没。たった一人、救命ボートに取り残された。と思いきや、ボートの中には、同じく生き延びたトラ、「リチャード・パーカー」の姿があった。少年と猛獣の異色のサバイバルが始まる中で、パイは恐怖と孤独、空腹と幻覚のなか、生きる意味や信じることが持つ力と向き合っていく。

星空を背に少年とトラのパペットが船の上に立つシーン
舞台では船が360度回転するというダイナミックな演出に加え、音楽や照明、プロジェクション映像が融合。冒頭からラストシーンまで、一瞬たりとも目が離せない展開に圧倒された。本作の大きな魅力は、なんといってもそのビジュアルと表現手法。俳優とパペットが一体となって演じる「トラ」はまさに本物のよう。トラだけではなく、サルやシマウマ、鳥などもすべてパペットで表現されており、操るパペッティアからは本物さながらの動物の鳴き声までも聞こえてきた。開始直後から緊張感に満ちた演出が続く一方で、時折観客の笑いを誘う軽やかな場面もあり、登場人物たちの感情の交差がダイレクトに伝わってくる。

舞台上のインドの街並み
公演のラストにはスタンディング・オベーションが自然に湧き上がるほどの深い感動が会場を包みこんだ。想像力と現実のはざまを漂うような舞台構成で、視覚や聴覚、感情までも巻き込まれる体験となった。パラマウント・シアターでは、多彩なブロードウェイ公演が楽しめる。ぜひ、ほかの作品にも触れてみてほしい。