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生きた言葉を届ける 日本語教材アプリ「サトリ・リーダー」〜特別レポート

生きた言葉を届ける 日本語教材アプリ「サトリ・リーダー」

取材・文:加藤良子

「サトリ・リーダー」は、日常会話が息づくオリジナル小説をシャドウイングしながら日本語学習ができる音声アプリです。物語は1話あたり2、3分ほどで、毎週3話更新されます。38タイトルにおよぶシリーズはヒューマンドラマからホラー、サスペンスまで幅広く、総エピソード数は1,500を超えます。充実したコンテンツが利用者を引きつけ、20万ダウンロードを突破する大ヒットとなっています。

ブライアンさんとリカさんのこだわり

アプリを開発したのは、長年日本語学習支援ソフトの開発に携わってきたブライアン・ラックさんと妻のリカさん。夫婦で共同運営を行っている。教材となる物語の約75%はリカさんが執筆し、残りの25%は社内のもう一人のライターと、外部契約ライターが担当している。

「語学学習は難しすぎると続かないし、かといって子ども向けの教材では意欲的になりにくい」。リカさんは、いかに利用者のモチベーションを引き出すかに重点を置き、ブライアンさんは 「日本語学習者としての初心を忘れないこと」をモットーに、学習者の目線に立ち、細かな調整を行いレベルに合わせた内容に仕上げている。

左から瞬さん、清香さん、リカさんの姪の舞夕まゆさん、ブライアンさん、リカさん

声優による大きな貢献

アプリ開発で最初に直面したのは、音声収録の問題だった。はじめはブライアンさんとリカさんが自宅の寝室で録音を試みたが、雑音が入ってしまうためプロのスタジオ収録に切り替えた。このとき、リカさんの知人を通じて演技・ナレーションを習った経験をもつ江口しゅんさんと清香さやかさん夫妻が声優として制作に加わった。瞬さんは初めて挑んだ当時の収録を「台本の流れが自然なので、セリフそのものの不自然さに気を取られず、役の感情や行動といった本質的な流れに集中でき役者として演じることを純粋に楽しめた」と振り返る。2人は声優という枠を超え、発音やイントネーションの修正からセリフのアレンジまで対応。特に、イントネーションへのこだわりは徹底していた。瞬さんが九州出身のため、自然な標準語で表現するのに苦戦した際は、以前録音した中で最も自然に話せた音声の再利用をしたこともあったと笑う。

声優の力が加わったことで、平面的で無表情だった教材が生き生きとした物語として動き始めた。登場人物が亡くなる話では「通勤中に勉強のつもりで聞いていたら泣いてしまった」「言語を学んでいることを忘れていた」といったユーザーコメントが多数寄せられたほどだった。

清香さんは「多くの人が利用してくれているプラットフォームの一部になれたことが光栄」だと語る。職場で声優をしているのではと指摘されたこともあり、「気恥ずかしいけれど嬉しかった」と笑顔を見せた。

母国語ではない言葉で物語を理解し感情移入できるという反響は、制作チームが一丸となって生きた言葉にこだわった成果といえ、大きな達成感となった。

「サトリ・リーダー」の学習画面

ハリウッド映画の原作者、
テッド・チャン氏とのコラボレーション

サトリ・リーダーでは今、新たな取り組みとしてアカデミー賞受賞作ハリウッド映画『メッセージ』の脚本家として知られるテッド・チャン氏の作品を教材として公開している。チャン氏はアメリカを拠点に活動するSF作家で、ヒューゴー賞やネビュラ賞など世界的な文学賞を多数受賞し、哲学的なテーマと繊細な筆致で高い評価を受けている。

教材として採用されたのは、彼の代表作「商人と錬金術師の門」の舞台を日本に置き換えた物語「歳月の門」である。上級者向け教材とされるこの長編は、江戸時代を舞台にしたタイムトラベル作品だ。主人公・房次郎ふさじろうが、神田鍛冶町(現在の東京都千代田区)の金物屋で見つけた不思議な「門」をくぐりタイムトラベルを経験し、将軍の前で「将軍様、この度はお目にかかれて誠に光栄でございます。」と語り始める場面から物語は展開する。SFファンも楽しめる壮大なスケールの作品でありながら、日本語学習教材としての緻密な言語設計も光る。

このコラボレーションは、学習者に「物語を通して日本を感じてほしい」というサトリ・リーダーの理念から生まれた。制作チームは、原作の舞台である中東を日本の江戸時代へ置き換えるため、江戸文化に詳しいライター兼編集スタッフの協力を得て徹底した時代考証を実施。指輪をかんざしに変え、砂漠の旅を和船の航海に置き換えるなど、細部まで丁寧に作り込んだ。特に、将軍への台詞に見られる「武家言葉」の丁寧さを学習者のレベルに配慮しながら調整するのに苦労があったという。

9月から始まった同物語は1年半かけて、全96話が順次公開される予定だ。日本語学習教材でありながら、文学作品としても味わえる挑戦的な試みとなっている。

「楽しい原体験」が学習意欲を支える力に

サトリ・リーダーでは各話ごとにコメント欄があり、これまでに2万件を超える質問や感想が寄せられている。リカさんとブライアンさんは、その全てに返信をしてきた。孤独になりがちな学習者を、彼らの温かな言葉が支えている。この温かく寄り添う姿勢こそ、サトリ・リーダーの大きな魅力だ。

ユーザーが感じる「日本語で物語が理解できて嬉しい!」という原体験の背景には、制作に関わる人たちの細やかな配慮と情熱がある。この血の通った過程こそが学習者の心を動かすインスピレーションとなり、生きた言葉として届く。サトリ・リーダーは、子どもが物語に夢中になって言葉を吸収するように、これからもユーザーを新たな世界へと軽やかに導いていく。

アプリの詳細は、サトリ・リーダーの公式サイトにて確認を。各エピソード、最初の2話まで無料で楽しめます!
https://satorireader.com/articles