注目の新作ムービー
中国と米国、政府が作り上げたうそ
In the Same Breath
(邦題「COVID-19 2つの大国の過ち / IN THE SAME BREATH」)
いまだに先行きが見えない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック。2019年末の発生が伝えられている中国武漢で何が起きていたのか、そして米国では。当時の武漢の様子とトランプ政権のパンデミックへの対応などを伝えるニュース映像を比較しながら2政権のうそを暴き出す、優れたドキュメンタリー映画を紹介したい。監督は中国生まれのナンフー・ワン。中国の一人っ子政策の現実を追ったドキュメンタリー映画「一人っ子の国」で、2019年のサンダンス映画祭ドキュメンタリー部門グランプリを受賞した気鋭の監督だ。
そんな導入で始まる本作は、報道が厳しく規制された中国で実際に何があったのかを、武漢の病院内部の様子やクリニックの防犯カメラの映像などを多用して、立体的に見せていく。驚くことに武漢では2019年12月時点ですでに新型コロナウイルスがまん延していたこと、そして重症化しても治療法がなく、病院が入院を断っていたこと、死者数も10分の1ほどに少なく報道していたことなどが、次々と明らかにされていく。にもかかわらず、中国政府は警鐘を鳴らした医師たちを罰し、「人から人への感染はない」と、うその報道を繰り返させていたのだ。
たまたま中国に帰省していたワン監督はまん延に危機感を抱き、映画化を決意。アメリカに戻った後、中国にいる撮影監督たちの協力の下、リモートで監督を続けるというユニークな方法で貴重な映像が集められた。中国で生まれ、アメリカで暮らすワン監督のような立場でなければ作れなかった作品だろう。
検閲がかかり、表現の自由がない中国に対し批判的なワン監督は、9年前に自由を標榜する米国へ移住した。だが、銃を持ってワクチン反対のデモに集まる人々を見て、誤った情報に操られている米国の人々の主張する自由を問う。果たして、中国と米国のプロパガンダにどれほどの違いがあるのだろうか。これは重要な提起である。
中国への批判的な映画を作るたびに中国の家族がトラブルに巻き込まれていると明かすワン監督。それでも真実に迫ろうとする勇気には脱帽だ。
In the Same Breath
邦題「COVID-19 2つの大国の過ち / IN THE SAME BREATH」
上映時間:1時間38分
写真クレジット:HBO
HBO Maxで視聴可能。