悔しさを積み重ねて
Wild Rose (邦題「ワイルド・ローズ」)
舞台は、現代のスコットランドのグラスゴー。若きシングルマザーのローズ=リン(ジェシー・バックリー)の夢は、ナッシュビルに行ってカントリー歌手になること。コテコテのグラスゴー訛りで話す主人公が、アメリカの「演歌」、カントリーの歌手を目指す設定がおかしい。
抜群の歌唱力があるのだが、アメリカへの渡航資金を手っ取り早く手に入れようと、麻薬売買に手を出したのがイケナかった。1年近いムショから出所してみると、専属だったカントリー・バーには別の歌手がいて、ひと悶着の末に追い出される。そのうえ、幼い子どもふたりを預かっていた母(ジュリー・ウォルターズ)からも、親の自覚を持てとどやされる。仕方なしに、嘘を並べて金持ちの家の清掃をすることになるのだが……。その後、主人公は「アリー/スター誕生」(2018)のようなハンサムな先輩歌手に認められる都合の良い展開もなく、シビアな紆余曲折に苦闘する。果たして、彼女は夢をつかめるのか?
そして何よりも本作の魅力は、破天荒な主人公をはつらつと演じたバックリーの素晴らしさである。圧倒的な歌声もさることながら、ムショ帰りという負の出発から、悔しさをたくさん積み重ねて、自分の場を見出していくという主人公を、ユーモアと説得力を持って見せてくれた。まさにスター誕生の主演作と言えるだろう。
ニコール・テーラーによるオリジナル脚本も優れていた。英国で女性主人公のドラマや映画の脚本を多く手がけてきたテーラーならではの、ただ泣かせるだけではない、リアルな母娘像が書き込まれていた。英国は才能豊かな女性ライターの宝庫だ。
Wild Rose (邦題「ワイルド・ローズ」)
写真クレジット:Entertainment One
上映時間:1時間41分
シアトル周辺では9月10日で上映終了。