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エクスチェンジ・ビルディング

アールデコたてものツアー(2)
エクスチェンジ・ビルディング
821 second avenue, Seattle

シアトル建築協会の「ダイアモンド&ゴールド:ノースウェストのアールデコ高層建築(Diamonds & Gold: The Art Deco Skyscraper Northwest Style)」は、シアトルのダウンタウンにある6つのアールデコビルを回る約2時間のウォーキングツアーだ。前回のシアトル・タワーに続いて訪れたのは、セカンド・アベニューにあるエクスチェンジ・ビルディング。

アールデコ建築はふたつの世界大戦の間に花開いた建築様式で、最盛期は1925年から1930年までのほんの5年間。この日に見たダウンタウンの6つのビルも、すべてこの5年間に建設されたものばかりだった。時は狂騒の1920年代、自動車や航空機といった最新テクノロジーが明るい未来を約束し、若い国アメリカはどんどん豊かになっていた。次々に派手な最新デザインのビルが競い合うように建設されていく20年代後半の街の活気は、建築用クレーンが立ち並ぶ現在のシアトルに少し似ていたのかもしれない。

このビルには「エクスチェンジ(取引所)」という名前の通り、4階にあたる吹き抜けのスペースに証券や商品の取引所が設置されていた。ツアーガイドのナンシーさんが教えてくれたアールデコの装飾性の特徴のひとつは、その土地に関係のあるものや建物に関連する意匠を取り込むところだという。このビルには小麦の意匠がふんだんに使われている。たぶん、当時の商品取引所の最重要品目のひとつだったからだろう。表通りに面したドアの上には、小麦をデザインしたステンドグラスがはめ込まれている。黒い大理石のパネルをはりめぐらせた玄関ロビーを入ると、豪華絢爛なエレベーターホールが広がっている。黒と金を基調としたゴージャス空間で、細かな浮き彫り模様のある天井も黄金色に塗られ、エレベーターの上にも、燦然と輝く太陽と小麦をデザインした華やかな真鍮製の飾りが、国の繁栄を讃えている。

しかし、このビルが完成したのは1930年。前年に株式市場は大暴落を経験し、世界大恐慌が始まっていた。ぴかぴかのエクスチェンジ・ビルでは、結局、証券も商品も取引されずじまいだったそうだ。そしてこの華麗なアールデコのビルたちの建築ラッシュのあとは、70年代になるまで、シアトルに新しい高層ビルが建てられることはなかったのだという。

[たてもの物語]

Tomozo
シアトル生活7 年めの英日翻訳者。 livinginnw.blogspot.com 協力:シアトル建築財団(Seattle Architecture Foundation/SAF) シアトルの建築やデザインと人びとを結ぶことを目的に活動する非営利団体SAFは、シアトルの建てものを巡る楽しいツアーを常時開催中(英語のみ)。本コラムはツアーで紹介されるエピソードを中心に、SAFのエキスパートの協力を得ています。詳細はseattlearchitecture.orgへ。