子どもとティーンのこころ育て
アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。
腸内環境と心の知られざる関係
食べ物のおいしいこの季節、ついつい食べ過ぎてしまい、体が重くなることは誰にでもありますよね。最近の研究では、過食やストレスにより腸内環境が悪化すると、体だけではなく心の状態にも大きく影響することが報告されています。
私たちの腸は「第2の脳」とも呼ばれ、神経細胞であるニューロンは1億個以上、さらに腸内細菌の数はなんと全細胞数(約 70兆個)の10倍以上となる600~1,000兆個にも上ります。これらの菌は群れをなして腸壁におり、顕微鏡で見るとお花畑のように見えることから「腸内フローラ」とも呼ばれています。その中には善玉菌と悪玉菌のほか、悪玉菌が増えると一緒になって悪さをしでかす「日和見菌」と呼ばれる菌もいて、日々変化しています。
日本では最近、腸内フローラを整える活動「腸カツ」が一大ブームとなっていますが、最新の研究では、宿主を太らせたり、痩せさせたりする菌、さらに落ち込んだり、集中力がなくなったり、キレたりといった精神状態にも作用する菌がいることがわかってきました。
スウェーデンのカロリンスカ研究所とシンガポールのジェノーム研究所の共同研究チームによると、通常の腸内細菌を持つマウスと無菌マウスを比較したところ、無菌マウスはストレスに弱く攻撃的で落ち着きのない行動を取るようになっ たそうです。この無菌マウスの脳の変化を調べた結果、幸せホルモンのセロトニン、やる気を引き出すドーパミンの量が少なくなっていました。さらに驚くことに、この無菌マウスに通常の腸内細菌を移植したところストレス反応は弱まり、ビフィズス菌などの善玉菌を増やしてあげたら正常な行動に 戻ったそうです。
心理学の分野では、かなり前から自閉症スペクトラム障害と腸内細菌との関係が指摘されていました。多くの自閉症児の腸内フローラには悪玉菌が非常に多く、米疾病対策センター(CDC)によると、自閉症児は健常児に比べて慢性的な下痢や便秘を経験する可能性が3.5倍以上、リーキー・ガット症候群(LGS)などの消化器疾患を持つ比率は42%に達します。
LGSとは腸の粘膜が慢性炎症を起こして小さな穴が開き、本来ならば腸壁を通過できないウイルスや細菌、重金属、化学物質、未消化物などを体内に取り込んでしまう病気で、慢性アレルギー、低血糖症、糖尿病なども発症しやすくなります。
2013年には、カリフォルニア工科大学でマウスを使った実験により、自閉症の発症にLGSと腸内細菌が関係している可能性が初めて明らかにされました。この研究では、菌が作り出 す尿毒素(4EPS)がLGSにより体内に広がって自閉症のような症状が現れること、健康なマウスに4EPSを注射すると不安行動が増加すること、自閉症児の多くにも4EPSと似た分子が高濃度で検出されていることが報告されました。また、高濃度の4EPSを持つマウスに腸内環境を改善するプロバイオティクスを与えると、4EPSの血中濃度が低下して自閉症の症状が軽減しました。このプロバイオティクスはすでに臨床試験の準備に入っているそうです。
これらのプロバイオティクスを始め、ヒトの精神状態に作用する微生物は「サイコバイオティクス」とも呼ばれ、現在大きく注目されている分野です。自閉症への応用だけではなく、たとえば無菌マウスにビフィズス菌を与えるとストレスに強くなる、他のマウスの腸内細菌を無菌マウスに移植すると他のマウスの性格が受け継がれる、マウスの不安やうつ症状の改善に、抗うつ薬よりもビフィズス菌が有効であるなど、性格や行動にまで腸内細菌が大きく作用するという研究が次々と報告されています。改めて、日々の生活でも悪玉菌を増やす添加物や糖分を控え、善玉菌を増やす発酵食品や食物繊維を多く摂取して腸内環境を整えることが、心と体の健康につながる近道だと言えそうですね。
次回は、バレンタイン・シーズンに向けてティーンエイジャーの恋愛事情、リスクと対処法について考えてみたいと思います。
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