知っておきたい身近な移民法
米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) の五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。
本コラムで提供される情報は一般的かつ教育的なものであり、個別の解決策や法的アドバイスではありません。また、情報は掲載時点のものです。具体的な状況については、米国移民法の弁護士にご相談ください。
学生ビザ保持者のオンライン授業に関して
7月は、学生ビザ保持者(FまたはMビザ)のオンライン授業に関して、大きな動きがありました。トランプ政権により1度発表された学生ビザ規制が一部撤回されたり、米名門大学や州の司法長官によるトランプ政権提訴があったりと、目まぐるしく状況が転換しました。今回の記事では、この大混乱のタイムラインを説明しながら、8月15日時点での状況をお伝えします。
新型コロナウイルスの感染拡大を避けるため、春以降多くのアメリカの大学はオンライン授業を実施していました。これを受け、学生ビザ・プログラムを管轄する米国移民局関税捜査局(ICE)は、春と夏学期に関して、留学生はアメリカに残りオンライン授業を受けることができるとしていました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず秋学期も対面授業を再開しないと発表した大学が多くなると、7月6日、トランプ政権は、秋学期にオンライン授業のみを実施する大学に通う留学生の滞在は認めない、そして、そのような状況でもアメリカに滞在し続ける留学生に対しては、国外退去の手続きを開始すると発表しました。そのため、留学生は、母国に戻るか、対面授業またはハイブリッド式授業(対面授業とオンライン授業を併用)を実施している大学へ編入するという選択を余儀なくされるという状況になりました。
このトランプ政権の突然の発表に対しては、発表と同時に、留学生の教育機会を奪っている、無理矢理ハイブリッド式の授業を実施すれば留学生はもちろんアメリカ人の学生や職員の健康を危険にさらす可能性があるなど、多くの批判が集まりました。また、多くの大学にとっては留学生が支払う学費が大きな収入源となっていることもあり、当然、大混乱を招くことになりました。
トランプ大統領は、「学校は秋学期には対面授業を再開しなければならない」と繰り返しているだけで、特にこの規制のベースとなる理由には触れなかったため、留学生を盾に強制的に対面授業を再開させようとしているという声もあり、発表の2日後には、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学が、規制の差し止めを求め、米政府を提訴しました。
これを複数の大学が支持し、留学生がアメリカに滞在しオンライン授業を受けられるよう要請しました。また、17州とワシントンDCの司法長官も米政府を提訴するという状態にまで発展しました。結果的に、7月14日、トランプ政権は、新規制を撤回することを決定しました。
よって、留学生は、3月9日の時点で大学に在籍していた場合は、秋学期がオンライン授業のみであっても、アメリカで学業を続けることが可能になりました。しかし、新入生としてビザが必要な留学生の場合は、対面授業またはハイブリッド式の授業を実施しない限り、ビザは発給されません。
なお、大阪、福岡、札幌の米国総領事館では、ビザ発給・渡航制限の対象外の学生・交流訪問者(F・M・J)ビザ、貿易駐在員・投資駐在員(E1・E2)ビザを含む一部の非移民ビザ・サービスが再開されています。しかし、対応できる申請に制限があるため、ビザ発給には通常よりも時間がかかることが予想されます。また、東京の米国大使館および那覇の米国総領事館では、現在も非移民ビザの面接は停止していますが、移民ビザの面接は一部再開しました。
移民局職員一時解雇・申請料一部値上げ
その状況の中、移民局は8月3日に申請料改定を発表。これによると、平均では約20%の値上がりですが、申請の種類によっては下がっているものもあります。新しい申請料は、10月2日より適用されます。