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小さな魚が集まり、巨大な魚を食い尽くす
Dumb Money
新型コロナウイルスの感染拡大が確認された2020年、「自分は何をしていたのだっけ」と妙なことを考えてしまった。2021年初めにかけて全く先の見えない状況が続いたが、株式の世界は革命的な事態で沸いていた。経済通の方なら覚えているだろう「ゲームストップのショートスクイズ」。その顛末をわかりやすいコメディーとして描き出したのが本作だ。
主人公はオタク度高めの貧しい金融アナリスト、キース・ギル(ポール・ダノ)。優しい妻(シャイリーン・ウッドリー)と幼子がいる。キースは株式市場のSNS、レディット上のオンライン・コミュニティーのひとつ「ウォールストリートベッツ(WSB)」への書き込みから市場調査をし、Roaring Kittyという自身のYouTubeチャンネルで情報発信をしていた。ある日、ゲーム専門店のゲームストップの株価が下落していることに気付いて情報を流し始めると、WSB上の書き込みで、ゲームストップの株をメルビン・キャピタル・マネジメント創設者のゲイブ・プロトキン(セス・ローガン)といくつかのヘッジファンドや投資会社が空売りしていることが判明。もとより、つぶれかけた会社を食い物に利益を上げるヘッジファンドを嫌っていたキースやRoaring Kittyの視聴者、看護師(アメリカ・フェレーラ)、ゲームストップの店員(アンソニー・ラモス)ら多数の個人投資家たちは、証券取引アプリのロビンフッドを使い、ゲームストップ株を買いに走った。その結果、株価が大幅に上昇し、ヘッジファンドや他の機関投資家が巨額の損失を被る。ところが、キースは株式操作をしたとみなされ、証券詐欺で訴えられてしまう。
タイトルのダムマネー(Dumb Money)は、マーケットで冷静な状況判断ができない投資家の資金を指す。当初、ヘッジファンドの連中は、キースらの金をダムマネーと見下し、甘く見ていたが、その金にしてやられたわけだ。小さな魚が集まり、巨大な魚を食い尽くす、こんな痛快な出来事がコロナ下で起きていたとは。個人投資家たちのワクワクが本作からも伝わってくる。
ただ、ショートスクイズ、空売りの仕組みなど株式に疎い人にはちょっとわかりにくい展開かもしれない。詳しく知りたい人にはNetflixのドキュメンタリー「イート・ザ・リッチ ~ゲームストップを救え!~」(日本語字幕付き)がおすすめだ。本作がかなり単純化され、明快に作られていることがよくわかる。
後半、手数料ゼロの株式取引をうたうロビンフッドが、2011年に起こった「ウォール街を占拠せよ」で知られるウォール街批判運動から生まれ、「収入によらず誰もが利用できる金融サービス」を目指したにもかかわらず、裏ではウォール街とつながっていたことなどが明るみに出る。たった数年で次々と不正が暴かれていく、この国のスピード感を思い知った。ちなみに、打撃を受けたメルビン・キャピタル・マネジメントは2022年に閉鎖している。
Dumb Money
写真クレジット:Sony Pictures Releasing
上映時間:1時間44分
シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。