アールデコたてものツアー(4)
グレート・ノーザン・ビルディング
1404 Fourth Avenue
シアトル建築協会のツアー「Diamonds & Gold: The Art Deco Skyscraper Northwest Style(ダイアモンド&ゴールド:ノースウェストのアールデコ高層建築)」で巡るビルをご紹介しているシリーズ。4回目は、まさにアールデコ最盛期の1928年に完成したグレート・ノーザン・ビルディング。
現在は1階に紳士服店「メンズ・ウェアハウス」が入っているこの4階建てビル、完成当初はグレート・ノーザン鉄道のチケット販売オフィスだった。この鉄道は現在のBNSF鉄道の前身で、ミネソタ州セントポールから終点のシアトルまでの全線が1893年に開通し、その後1929年にシカゴとシアトル/ポートランドを結ぶ旅客用の大陸横断列車「エンパイア・ビルダー」が運行を開始した。この列車とルートは今もアムトラックの列車に受け継がれている。
今ではマネキンが並ぶショウウィンドウは、当時はオリエント急行の客車や食堂車などをテーマにしたディスプレイで飾られ、深緑と茶色のカーテンも添えて豪華列車の内装を再現していたという。当時の鉄道旅行は多くの人にとって一大イベントだったに違いない。旅客列車の運行開始に合わせてオープンしたこのチケットオフィスは鉄道旅行の夢をかきたてるショウルームでもあったのだろう。
設計はイエローストーン国立公園の「オールド・フェイスフル・イン」や、オリンピック半島の「レイク・キノールト・ロッジ」を手掛けたR.C.リーマー。全体にすっきりとした印象のビルで、古典やモダニズムの要素に華やかなアールデコの装飾を合わせている。まず目につくのは1階の窓の上の外壁にぐるりとめぐらされたレリーフ。ゼンマイかシダを思わせる大胆な模様は、ネイティブ・アメリカンの羽飾りをイメージしたものとも言われる。ショウウィンドウの上を飾る金属板にも植物の美しいレリーフが施されている。
このほか最上階にも植物をモチーフにしたレリーフがあり、こちらにはマヤ文明の遺跡のデザインの影響が見られるそうだ。アールデコ建築には、この頃次々と遺跡が発見されていたマヤやエジプトといった古代文明のモチーフも多く取り入れられた。それまでの主流だった重々しく権威的な新古典主義に背を向け、新しい時代の価値観と気分を表すデザインを模索する試みの一つだった。
今では高層ビル群に埋もれた1920年代のビルたちには、時代を語る華麗なディテールが盛りだくさん。爽やかなシアトルの夏、ウォーキングツアーで街並みを再発見してみてはいかがだろうか?
[たてもの物語]