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King Richard「ドリームプラン」 〜注目の新作ムービー

注目の新作ムービー

世界最強のプレーヤーはいかにして育ってきたか?

King Richard
(邦題「ドリームプラン」)

初めてセリーナ・ウィリアムズのプレーを見た時の衝撃は忘れられない。それまで細身の白人女性たちが多くプレーする女子テニス界で、屈強な筋肉を全身にみなぎらせ、声を上げながらパワフルにプレーをするセリーナ。思わず「ワオ!」。しかも、姉もトッププレーヤーで名前はビーナス。なんてすごい姉妹が現れたのだろうと、ふたりの登場に瞠目(どうもく)した。

本作は、そんなふたりを育てた父親兼コーチのリチャード・ウィリアムズを主人公とした劇映画だ。彼がいかにしてこの姉妹を世界一のプレーヤーに育て上げたのか。そのユニークな教育/コーチ方針を中心に、ビーナスが14歳でプロに転向する直前までの家族の姿を描いていく。

リチャード(ウィル・スミス)は、ビーナス(サナイヤ・シドニー)とセリーナ(デミ・シングルトン)が生まれた時から、ふたりをテニス選手にしようという計画を持っていた。テニスが白人のスポーツとされていることや優勝賞金の大きさなどが彼の決意を固くさせていた。決して豊かとは言えない暮らしの中で、リチャードは昼には近所の公園でみっちりふたりをコーチし、夜には夜警を続け、自分の計画への揺るぎない確信を持ち続けていた。しかし、ふたりの技術が上がっていくにつれ、独学でコーチを続ける限界を感じ、有名テニスクラブに出かけてプロのコーチを探すことに。結果、ふたりのプレーに可能性を見たジョン・マッケンローの元コーチ、ポール・コーエン(トニー・ゴールドウィン)が、ひとりだけならという条件付きでビーナスのコーチを無料で引き受ける。厳しい練習を続けるビーナスはメキメキと力を付けて、ジュニアのトーナメントで連戦連勝を続けていくのだった。

ないない尽くしだったアンダードッグが成長し、トップに上り詰めるという物語は何度も語られ尽くしたクリシェではある。しかし、ふたりの実際の活躍を知る観客には説得力を持ち、見ていてある種の快感があった。姉妹を演じた少女たちの健康的な愛らしさ、5人姉妹の下ふたりの活躍をわがことのように喜ぶ姉たちや、教育を第一とするリチャードが姉妹のトーナメント生活にブレーキをかけていく強引さに毅然(きぜん)と立ち向かう母(アーンジャニュー・エリス)の姿もきちんと描かれている。父だけでなく家族全員に支えられて、ふたりが最強のプレーヤーに育っていったことが無理なく納得できる。

実在のリチャードは強面の初老の男性で、姉妹の現役中は自信満々な発言を続けて、傲慢(ごうまん)だと不興を買ったこともあったようだ。そんな彼を知る人は、好感度抜群のスミスが演じたことに違和感を覚えるかもしれない。本作のリチャードは頑固に自分のやり方を押し通すが、自信にあふれ、大きな愛を姉妹に注いだ人という印象で、そのことにたぶん大きな間違いはないのだろう。だが、実在の彼はもっと複雑な個性、人間性を持つのではないだろうか、という気がした。とは言え、本作を通してウィリアムズ姉妹の残した偉業の揺るぎなさを再確認できた。

King Richard
邦題「ドリームプラン」

上映時間:2時間24分

写真クレジット:Warner Bros. Pictures

シアトルではシネコンなどで上映中。また、HBO Maxで視聴可能。。

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。