Home 美容・健康 私たちの命を守るヘルスケア(旧・女性の命を守るヘルスケア) 第48回 患者アドボケート...

第48回 患者アドボケートの将来と役割〜私たちの命を守るヘルスケア

がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。

患者アドボケートの将来と役割


患者アドボケートとは
健康な日常生活を送っていた人が、突然がんのような深刻な病に直面すれば、誰でも戸惑うことでしょう。医療用語が混じる医師の説明を理解することは困難で、アメリカの複雑な医療制度の前で途方に暮れてしまうこともあります。病院には患者対応の窓口があるものの、何を聞けばいいのかさえわからないこともあるのではないでしょうか。そんなとき、頼りになるのが患者の立場を理解し、擁護(アドボケート)する患者団体です。
患者アドボケート活動は、多くの場合、患者自身や家族、友人が病気を経験したことで、同じ境遇にある人々を支援したいという思いから、非営利団体として始まります。私たちFLATもその一つです。病気だけではなく、慣れないアメリカの医療制度に戸惑う在米日本人の不安に耳を傾け、お互いの経験をシェアしながら話し合い、支え合うために集まったボランティアが活動しています。個人レベルで患者を支援するだけでなく、アメリカの患者団体のように広く社会から支援を受けて、在米日本人の健康を支えられる活動へと発展させたいという夢もFLATにはあります。
日米で異なる活動環境
医療にかかわるさまざまな団体や企業、日本を含む他の患者団体とどのように連携し、活動を発展させていけるのか。今年7月、アメリカの患者アドボケート団体が東京で「アドボケートの将来と役割」をテーマに、日本の製薬企業や患者団体を交えた話し合いの場を設けました。私もコンサルタントとしてその会合に参加しました。
この話し合いで、製薬企業と患者サポート団体との関係や、日本における患者団体の運営がアメリカとは大きく異なることを再認識しました。アメリカでは、治療方針を決める際に医師と患者が共に検討する「シェアード・ディシジョン・メイキング」が重視されるようになってきています。また、より良い治療法や治療薬の開発には患者の協力が欠かせません。新型コロナ対策の経験から、マイノリティ住民への働きかけや公平性の確保も重視されつつあります。このため、アメリカでは患者を支える患者団体の役割が大きく、医療や製薬企業との連携も強まっています。
しかし、日本では産業界の規制や患者団体の規模や運営形態など、さまざまな背景からアメリカとは全く異なる環境が存在しています。東京での会合では、新薬を患者に届ける流れを作るには、企業や医療者だけでは不十分な時代が来ていることが明らかになりました。しかし今のところ、日本の製薬企業は自社のルールを守りつつ、どのように患者団体とつながっていけるのかを模索している段階にあるようです。
非営利団体も財政基盤が必要
日本の患者団体は、地域ごとに個別に活動する小規模団体が多く、無償での活動によって試行錯誤しながら患者支援に取り組んでいます。「情熱だけで動けるのは3年」という切実な声もあり、継続性という点で課題が浮上している様子もうかがえます。これは130万を超える非営利団体が存在し、多くは企業のスポンサーやパートナーシップで財政基盤を確立し、専従職員を雇用して運営されているアメリカとは大きく異なります。
今回、私が同行した団体は日本以外の国々も訪れていますが、必要な医療を行き届かせる上で、それぞれの国の文化や慣習が障壁となる場合があると指摘しています。実際、私たちFLATもアメリカで活動する中で、寄付文化が希薄な日本の影響を受けています。在米日本人を対象としているためか、個人レベルの寄付を頼りにボランティアが手弁当で運営しているのが現状です。
多様性や人種間の公平性が注目され始めましたが、在米アジア人、とりわけ日本人はアメリカでの存在感は薄く、資金を提供する側からはコストパフォーマンスが低いと見られる傾向があります。しかし、患者参加型の治療が進む中で、医療者との距離を縮めるためには、患者アドボカシー団体の役割が一層重要になっていくでしょう。FLATは今後も、多方面に働きかけ、日本人コミュニティーの中で支え合っていけるよう活動を続けていきたいと考えています。
ブロディー・愛子 FLAT・ふらっと」代表

■患者アドボケート。2001年に乳がんを経験。2013年より乳がん患者への支援活動を開始し、これまでに11,000人以上の在米日系人をサポートしている。ICF認定ライフコーチ、アーキタイパル・コンサルタントとしても活躍中。alliswellcoaching.com
FLAT・ふらっと
2013年から続く乳がん・婦人科がん患者サポート団体のJapanese SHAREが、2023年4月1日より、ニューヨークを拠点とした非営利団体、FLAT・ふらっとに活動の場を移行。乳がん・婦人科がんのほか全てのがん患者、高齢者、スペシャルニーズのある子どもの保護者を対象とし、在米日本人コミュニティーを健康と医療の面から支える。