がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。
米国の医療を安心して受けるために
フロリダ州在住の総合内科医、安川康介です。日本の医学部を卒業し、15年間アメリカの医療現場で働いてきた立場から、アメリカで医療を安心して受けるうえでのポイントをお伝えします。
英語が不安な場合は医療通訳を頼もう
医療現場においては正確な情報のやり取りが非常に大切です。アメリカの医療を受けるにあたり英語に不安がある場合は、ぜひ「医療通訳」を利用してください。アメリカでは人種や国籍などによる差別を禁ずる連邦法の公民権法*①を法的根拠に、医療通訳サービスを提供しています。2000年の大統領令第13166号*②により、英語が得意でない(LEP:Limited English Proficiency)患者への無料の医療通訳サービス提供がより明確に義務化されました。手間をとらせて申し訳ないと思うかもしれませんが、特に多様な人種がいる都市で働く医師は、LEP患者の診療には慣れているので心配ありません。
プライマリ・ケア医を持つ大切さ
アメリカに滞在する全ての日本人におすすめしたいのが、自分のプライマリ・ケア医(かかりつけ医)を持つことです。大人であれば内科医・家庭医(女性には産婦人科医が加わることも)、子どもであれば小児科医を指します。日本では健康な時に自分の健康を管理する「かかりつけ医」を持つことは少ないかもしれませんが、アメリカでは一般的です。プライマリ・ケア医は、持病の管理だけでなく、定期的な健康診断、ワクチン接種、がんのスクリーニングなどの予防医療サービスも提供します。必要に応じて専門医への紹介など、医療サービスの調整役・司令塔としても機能してくれます。プライマリ・ケアによる年に一度の健康診断(annual physical exam)や予防医療サービスは、通常保険でほぼ全額カバーされます。地域によってはプライマリ・ケアの予約が数カ月先まで埋まっている場合もありますので、早めに探してみてください。
自分の医療情報をきちんと把握する
アメリカでは「医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律」(HIPAA:Health Insurance Portability and Accountability Act)*③や「21世紀の治療に関する法律」(21st Century Cures Act)*④といった法規制により、患者が自分の健康情報にアクセスできる権利がしっかりと保障されています。日本と異なり、患者は簡単に自分の健康情報にオンラインでアクセスできるようになっています。クリニックや病院で診療してもらうと、その医療機関の患者ポータル(Patient Portal)で自分の血液検査、処方、画像検査結果などだけでなく、医者の診療記録を読むことができます。自分の健康情報を把握しておくためにも、こうしたポータルの活用をおすすめします。医者としても、普段から自分の健康状態や処方されている薬について正確に把握している患者へは円滑な医療サービスを提供できるため、より良い医療につながると感じています。
不満がある場合は病院の患者サービス部門に相談を
多くの病院には患者アドボケート(Patient Advocate)や患者リレーションズ(Patient Relations)などと呼ばれる患者サービス部門があります。もし入院中の医療サービスやコミュニケーション等に強い不満がある場合は、このような部門に相談すると早急に解決するよう、担当の医療従事者に連絡がいくことがあります。病院にこうした部門があることを知っておくと、問題が生じた時に役に立つことがあると思います。
アージェント・ケアとエマージェンシー・ルームの違い
プライマリ・ケア医を持たないで病気になった場合は、アージェント・ケア(Urgent Care)かエマージェンシー・ルーム(ER:Emergency Room)のどちらに行けば良いか迷うことがあるかもしれません。命に関わりかねない重い病気の場合は、エマージェンシー・ルームに行くことをおすすめします。アージェント・ケアは、主に軽症な病気(たとえば、インフルエンザや風邪、咳やのどの痛み、捻挫等)を診てくれますが、エマージェンシー・ルームに比べてできることは限られています。血液検査ができない、できても結果が同じ日にわからない、X線検査ができない等、場所によっても対応にバラつきがあるため、気になる場合はあらかじめ確認した方が良いでしょう。一方、アージェント・ケアは、予約なしでの診療やオンライン予約で待ち時間の短縮が可能で、通常はエマージェンシー・ルームよりも待ち時間が少ないことが多いです。
安川康介 ■
米国内科専門医・米国感染症専門医。2007年慶應義塾大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターにて初期研修後、渡米。米国ミネソタ大学医学部内科研修、テキサス州ベイラー医科大学感染症研修修了。南フロリダ大学医学部助教。YouTubeで医療情報を配信。2024年2月に『科学的根拠に基づく最高の勉強法』をKADOKAWAから出版(8万部超え)。 @kosuke_yasukawa
米国内科専門医・米国感染症専門医。2007年慶應義塾大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターにて初期研修後、渡米。米国ミネソタ大学医学部内科研修、テキサス州ベイラー医科大学感染症研修修了。南フロリダ大学医学部助教。YouTubeで医療情報を配信。2024年2月に『科学的根拠に基づく最高の勉強法』をKADOKAWAから出版(8万部超え)。 @kosuke_yasukawa
参考文献
① 第2パラグラフ:公民権法
https://ocrportal.hhs.gov/ocr/cp/complaint_frontpage.jsf?lang=ja
② 第2パラグラフ:大統領令第13166号 Executive Order 13166
https://www.justice.gov/crt/executive-order-13166
③ 第4パラグラフ:「医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律」(HIPAA:Health Insurance Portability and Accountability Act)
https://ocrportal.hhs.gov/ocr/cp/complaint_frontpage.jsf?lang=ja
④ 第4パラグラフ:「21世紀の治療に関する法律」(21st Century Cures Act)
https://www.fda.gov/regulatory-information/selected-amendments-fdc-act/21st-century-cures-act