シアトル駐在日誌
アメリカでの仕事や生活には、日本と違った苦労や喜び、発見が多いもの。日本からシアトルに駐在して働く人たちに、そんな日常や裏話をつづってもらうリレー連載。
星 和弘■ 福島県出身。1992年、株式会社伊藤園入社。2015年よりディスタント・ランド・コーヒー(Distant Land Coffee)社長として出向、シアトル駐在となる。
伊藤園に入社したのは、もともとメーカー志望ということもあったのですが、健康志向の商品展開が魅力的だったからです。お茶もとてもおいしいですしね。入社後はなぜか、いきなり経理部に配属されました。その後は希望してハワイの子会社に赴任し、トロピカル・ジュースを扱っていました。日本に戻って8年勤務した後、今度はフロリダで9年間、サプリメント事業に携わり、2015年より、ここシアトルでコーヒーを取り扱う「ディスタント・ランド・コーヒー」の社長を務めています。つまり、私はこの26年間の伊藤園人生で、1度もお茶を売ったことがありません。
伊藤園は茶畑からこだわりを持って、その品質を管理しています。日本の法律では企業が直接茶畑を保有することは禁止されているのですが、信頼するお茶農家と契約を結んだり、地方の遊休地を茶畑に改良したりして、長年培ってきたノウハウを生かしています。ディスタント・ランド・コーヒーは、創業者が伊藤園と同じような考えを持ち、質の高いコーヒーの提供を目指して50年前にコスタリカで農園を始めたところからスタートしています。コーヒーの生産、焙煎から商品の販売までを一貫して行っている会社です。世界の3大飲料は水・お茶・コーヒーと言われていて、将来の海外展開を見据えた伊藤園がこのディスタント・ランド・コーヒーを買収し、現在のビジネスに至りました。
ここでは社長として経営全般を担うほか、日本への報告業務や流通各社との交渉、各地での展示会への出展、商品価格の決定なども行っており、月の半分は商談や打ち合わせで出張に出かけています。10月後半から2月にかけてのコーヒーの収穫期には、コスタリカの自社農園にクライアントと出向き、その品質を直に確かめてもらっています。農園の周りには何もないので、夜は一緒にお酒を酌み交わし、語り合うことも大事な仕事のひとつ(?)です。
コーヒー豆の品種は、害虫や悪天候などに強く栽培はしやすいが味はやや落ちるロブスター種と、栽培に手間ひまがかかるけれど豊かな風味を持つアラビカ種があります。ディスタント・ランド・コーヒーの農園では、アラビカ種の中でもグレードの高い「スペシャルティー・コーヒー」に特化して栽培をしています。コーヒーの木にはサクランボのような赤い実がなり、実際に「チェリー」と呼ばれています。その皮と果肉部分を取り除いた種子の部分を乾燥させ、焙煎したものが「コーヒー豆」となります。ディスタント・ランド・コーヒーの豆は伊藤園による缶コーヒーの一部で使用されているほか、パネラ・ブレッドやセーフウェイのプライベート・ブランドとしても業務用を中心に流通しています。オリジナルのコーヒー「JAVA TRADING」も販売し、シアトルでは取り扱いがまだ少ない状況ですが、全米での販路拡大に尽力しているところです。もし店頭で見かけたら、この自信作をぜひお試しください。
仕事以外では、今年で11歳になるひとり娘の成長がとにかく楽しみです。休日は家や近所でのんびりしているうちに終わってしまうことも多いのですが、何日かまとまった休みが取れると、家族で旅行にも出かけます。野球観戦が好きなので、今年5月にロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手がシアトルに来た時には、バッターで登場した日もピッチャーで登場した日も、両方応援に行きました。上手ではないですが、ゴルフも好きです。と言っても、出張先でお客さんとやることがほとんどで、なかなかシアトル界隈のゴルフ場は開拓できずにいます。でも、最近は妻と娘を連れて打ちっ放しに行くこともあり、家族で楽しめればと思います。また、健康のために週1回程度、5、6マイルのランニングも欠かさないようにしています。
アメリカでの生活も通算で16年目に突入。妻は「こんなはずじゃなかった……」と思っているかもしれません。今はひとつの会社を任せてもらっている環境に感謝し、任期が終わるまでに少しでも会社を成長させたいという気持ちでいっぱいです。