普段はシアトルの現地校に通っている日本人の小学生3人が、夏休みを利用して4日間、静岡県熱海市立桃山小学校(通称・桃小)に体験入学。訪れた子どもも、受け入れた子どもも、驚きの毎日だったようです。
取材・文:御代田太一 取材協力:(株)ENパシフィックサービス
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小学校の集団生活にひと苦労
7月11日〜14日、桃小に体験入学したのは、シアトルに住む藤田梨愛(りあ)ちゃん(小4)、弟の晃輝(こうき)くん(小2)、星野 隆(りゅう)くん(小4)の3人。土曜にシアトル日本語補習学校で日本語の勉強をしているが、「実際に日本の学校に通ってみたい」という3人の希望から体験入学が実現した。梨愛ちゃんと晃輝くんは昨年に続き2度目となる。JR熱海駅から20分坂を上るとたどり着く桃小は全校児童50人。教室からは太平洋が一望できる。「お客さまとしてではなく、一児童として桃小の日常を体感して欲しい」という校長先生の言葉もあり、熱海の民家に母親と泊まり、毎朝6時に起きて、汗だくになりながらみんなと学校に通った。
集団登校、朝の体操、給食当番、教室の掃除……どれもシアトルの学校ではやらないことばかり。高学年の子どもの 「分からないことは言ってね」の声を頼りに、雑巾の絞り方やほうきの使い方を必死に覚えていく。桃小には少人数クラスならではの授業がある。体育では4人グループに分かれ、音楽に合わせたダンスを自分たちで考えて発表。しかし、制限時間の10分では話し合いがまとまらず、ダンスが決まらない。その後の反省会では「アイデアはたくさん出るけど、ひとつにまとめるのが難しい」「他の人のアイデアの良いところを見つけるのが大事」と、子どもたちが率先して発言。梨愛ちゃんと隆くんも負けじと手を挙げて自分の意見を言い、みるみるうちにチームワークが良くなった。
異文化の刺激
4年生の授業ではiPadを使ってグループごとにシアトルについて調査。「シアトルはスタバの発祥地なんだって!」「熱海にはないね」「雨が多いらしいよ。天気は熱海が勝ってるね」。いろんな会話が飛び交う中、桃小の子どもは海の向こうの町に思いをはせ、梨愛ちゃんと隆くんは誇らしげにシアトルのことを話す。英語のサイトが出てきて桃小のみんなが戸惑っていると、梨愛ちゃんがすかさず読み上げ、その発音にはみんな目を丸くした。下校中、梨愛ちゃんと隆くんが英語で話し出すと、それを聞いた桃小の子どもたちは「何の話をしているの?」と興味津々。異文化の国から来た友だちとの出会いの中で、多くの刺激を受けた。
「来年も来てね」。楽しい4日間はあっという間に過ぎ、最終日にはみんなから「いつかシアトルにも行ってみたい」という言葉と共に手紙をもらった3人。昨年は帰り際に 「私、日本に引っ越してみたいな」と言った梨愛ちゃんだが、今年は「この手紙を枕の下に置けば、いつでもいい夢が見られるね」と話していた。
アメリカで日本語を勉強する機会は多くなく、子どもた ちはどんどん漢字や日本語を忘れてしまう。そこで、夏休 みに日本の学校へ体験入学させたい家庭は多い。しかし、体験入学には決まった手続きがなく、受け入れるかどうかを決めるのも、学校によって対応はさまざま。先生の数が少なかったり、体験入学する子どもの日本語を話す能力が不十分だったりで、断られるケースも少なくない。受け入 れてくれる学校は親が探すことになる。「10人希望しても実際に通えるのは3人くらい」と話す親もいる。
縁あって今回、体験入学する3人の学校生活をサポートするために一緒に学校に通った筆者は、育った環境の違う子どもたちが、お互い緊張しながらも、すぐに仲良くなって溶け込んでいく様に驚いた。実際に日本の学校に数日〜数週間通ってみることで、海外在住の子どもたちだけでなく、日本の子どもたちにとっても良い刺激が生まれる。アメリカに 住む子どもたちが、夏休みや冬休みを利用して日本の学校に体験入学に行く選択肢がより一般的になることを願う。