墨絵クラス
墨絵教室を体験するため、レドモンドの山あいにひっそりとたたずむシアトル神護寺を訪問。懐かしい線香の香りに包まれながら境内を進むと、住職の福田一陽さんが出迎えてくれた。
「瞑想への興味から仏門の道に興味を持ったのです」という福田先生。アメリカの大学で絵画と言語学の修士号を取得した後、カリフォルニア州の大学で教鞭をとっていた。教師としてのキャリアを歩みながら、縁あって修業を開始。僧籍取得後、カリフォルア州サクラメントの寺院で7年間、主任開教師(住職)として過ごしたのち、昨年10月、シアトル神護寺の住職になった。墨絵教室はサクラメント滞在中にも開講しており、生徒の描いた作品の展示会を定期的に開催するなど、生徒同士が刺激し合える発表の場を設けていたそうだ。
まず竹の葉を描く練習から
筆を握るのは中学以来、実に8年ぶり。初めての墨絵体験に、緊張感とわくわくする気持ちが入り混じる。「アメリカ人の参加者も多いです」と、全く筆を持ったことのない人もいることから、通常、初日は道具の説明から始まるそうだ。
この日も簡単な説明を受けた後、竹の葉の描き方から挑戦してみることになったのだが、これがなかなか難しい。「笹の葉に似ている筆本来の形を利用して筆先から流れるように縦に真っ直ぐ筆を入れ、少し力を込めて中心部分に膨らみをつけて、力をゆるめて流れるように払うのがコツ」と言われるのだが、力の感覚がうまく掴めない。自然な形の葉にするには、途中で筆のスピードを緩めずに書き切るのだそうだが、そのスピードの調整が非常に難しい。簡単そうに見える葉だったが、いくつ描いても満足のいくものはできなかった。
意図せずにできたにじみやかすれが魅力
続いては茎。一本の茎を描くのに、墨をつけるのは一度きり。筆を動かすスピードを微調整しながら、墨のかすれを作る。墨を付けすぎれば上手にかすれを表現できないし、少なすぎても途中で墨が尽きてしまう。筆に含ませる墨の量ひとつを取っても、繊細な感覚と、そして大胆に筆を進める技術が必要なようだ。しかし、先生からは「なかなか上手じゃないですか」と褒めていただき、ちょっといい気持ち。こちらの方が、葉よりは易しく感じられた。
最後に挑戦したのは枝。均等な太さでなるべく細く描いていくのだが、ここでも筆先のコントロールが大切。「心を真っ直ぐにして書くのがコツ」とのことだが、長さが不均等で不恰好に見えてしまう。途中、偶然に墨がにじんでしまったのだが、「意図せずにできたにじみや傾きも魅力なのです」と言われ、墨という黒一色だからこそ、濃淡や空間の使い方をより深く考えて描くことが、おもしろさに繋がるのだとうなずかされた。
通常のレッスンでは葉の描き方で1クラスを費やすそうだ。実際に竹全体を描く際には、竹が伸びていく順に茎、枝そして葉というように進んで行く。この日は1時間ほどのレッスンで1コース分の詰め込みだったが、書道とは違った趣の新鮮な時間を過ごせた。レッスン内で、西洋画と東洋画の違いの話を盛り込むなど、豊富な知識を持つ福田先生のレッスンは、墨絵に限らず、様々な知識が得られ、とてもおもしろい体験だった。
自分の作品は裏打ちして完成
1コースは10週間で構成され、1つの題材をもとに練習する。コース終盤になると、お題をもとに自由に絵をデザインする時間が与えられる。その後、自分が描いた作品を鑑賞用に補強する、裏打ちと呼ばれる行程に取り掛かる。最終的には、完成作品を額に飾ることが
できるので、達成感を得られる充実したコース内容だ。初心者用の竹のコースを終えると、菊、梅そして蘭と徐々に上級者向けの題材を扱うコースにステップアップできる。その後も、竹なら竹の書き方を応用させて小動物を描くなど、飽きることなく練習を重ねられる。
必要な道具の説明は初回の授業で行われるので、事前の準備は不要。料金は1コース(10週間)85ドル。コースはすでに始まっているが、途中参加も受け付けている。
シアトル神護寺
502 Redmond-Fall City Rd. SE, Redmond, WA 98053
% 425-222-4710 jingojiusa@gmail.com
詳細情報 www.jingoji.net/information.htm
教室情報 毎週水曜日午後と夕方の2回
日本語クラスも開講中