映画評論家 土井由美おすすめの「夏の映画」
『TOMORROW 明日』(英題:Tomorrow)
*原爆の夏*
監督:黒木和雄 公開:1988 年
長崎に原爆が投下された昭和20年8月9日午前11時02分までのある家族の24時間を描いた戦争映画。8日、三浦家では次女の婚礼と祝いがあり、臨月の長女は産婆の手で出産、戦時下ではあったが家族は慎ましい喜びを感じていた。真夏の長崎で原爆によって一瞬に奪われた多くの命、死の寸前まで精一杯生きていた人々を描いた日本の反戦映画の名作。戦争レクイエム三部作の第1作目に当たり(他2作は『美しい夏キリシマ』『父と暮らせば』)、原作は井上光晴の『明日―1945年8月8日・長崎』。
『ソナチネ』(英題:Sonatine)
*ヤクザの夏*
監督:北野武 公開:1998 年
東京の暴力団北島組の傘下である小さな村川組が、沖縄での抗争の助っ人に送られた。だが、それは北島組の罠だった。予期せぬ殺し合いの果てに、沖縄のある海岸の家に避難した村川と組員 だが……。真夏の沖縄、美しい海岸を背景に、退屈しのぎに紙相撲をしたり、浜辺でふざけ合うヤクザたちの奇妙な明るさと忍び寄る死の影。ヤクザ映画というジャンルに新風を吹き込んだ北野武 監督の初期の名作。極度の緊張に差し込まれる脱力の笑い、静寂と突如の暴力などを独特のテンポで描き、その後の彼の作品の特徴がすべて提示されている。
『Death in Venice』(邦題:ベニスに死す)
*欧州貴族の夏*
監督:ルキノ・ヴィスコンティ 公開:1971年
静養のためにベニスに来ていた作曲家が、夏休みで賑わう海岸で美しい少年に永遠の美を見出し、彼を追いかける。今ならストーカーものと揶揄されそうな物語だが、ゲイだったヴィスコンティ監督が少年美への憧れを真正面から描いた歴史的名作。暗くぼんやり浮かぶベニスの町とマーラーの交響曲第5 番で始まる導入部から最後の最後まで、手抜きなしの凝ったディテールで見せるトーマス・マン原作の文学世界。名匠の作とはこういう作品のことである。
『千と千尋の神隠し』(英題:Spirited Away)
*異界の夏*
監督:宮崎駿 公開:2001年
夏というと久石譲作曲のテーマ曲『あの夏へ』のピアノの音がまず浮かぶ。小学4年生の少女が異界に迷い込み、そこでの冒険を通して勇気と優しさを学んでいく。異界の生き物たちの愉快な造形と不思議な世界が独創的で、風になびく草原や鮮やかな花々の色彩、静かな夜の海と空などの美しいアニメ画面にも魅了される。 また、少女が運動靴を脱いで靴下を中に入れるなどの丁寧なディテールにも優れ、興行的にも大ヒットした日本アニメの傑作。宮崎監督とスタジオジブリの名を世界中に大きく広めた。