3月11日にシアトルで行われた被災者支援音楽イベント「スマイル・フォー・ジャパン」に、ミネソタ州を拠点に音楽活動を行う石川雅愛さんが出演した。石川さんは、福島県会津若松市の出身。インタビューでは、アメリカでの音楽活動、東北への思いについて語ってくれた。
取材・文:小林真依子
留学先でスタートしたピアノ人生
石川さんが音楽と出合ったのは、福島県会津若松市で小学~高校時代に所属していた合唱団。音楽について学んだのは学校の授業のみで、進学した大学も経済学部だった。日本ではずっと、ピアノは独学だ。
大学在学中にスティービー・ワンダーの音楽に出合い、「アメリカで音楽を勉強できたら」という思いが強くなった石川さん。卒業後はすぐにシアトルへ飛んだ。入学したのは、ショアライン・コミュニティー・カレッジ。音楽専攻ではピアノが必須科目で、人生で初めてピアノを習う石川さんに対し、クラスメートは長年ピアノをやっている人ばかり。差は歴然だったが、めきめきと腕を上げていった石川さんは、その後コロラド州に移り、ジャズ・ピアノの修士号を取得した。「学期ごとにレベルが上がっていくクラスに、達成感がありました。学生の頃は先のことなんて考えず、ただピアノが楽しいという思いだけで過ごしていました」と、石川さんは当時を振り返る。
2010年には「音楽を深く学ぶため、作曲を勉強したい」と、サウス・フロリダ大学へ。そこでチャック・オーウェン教授と出会い、音楽の方向性が決まる。「チャック教授の音楽は詩情的。まるでエッセイを書いているようなんです」。自分の感情や経験を音楽に込める教授の音楽性が、石川さんには合っていたという。「受験ではチャック教授に『まだプログラムに入るには力不足だね』と言われて、試験に落ちたと思っていたんです。ラッキーでした(笑)」
忘れ去られた人たちへの組曲
石川さんの音楽はジャズをベースとし、日本的な題材やテイストを効かせている。サウス・フロリダ大学在学時の卒業制作で作曲した「無常」は、仏教の教えである「諸行無常」をテーマに、和太鼓を取り入れた。東日本大震災で被災し、亡くなった人への追悼の思いを込めている。また、ネブラスカ大学での博士課程卒業制作で書いた「忘れ去られた人たちへの組曲」は、原発災害に対する問題提起の1曲。東京電力福島第1原子力発電所の事故を風化させないという気持ちで作った。
震災から7年が過ぎ、だんだんと報道が減っていく中、今も故郷に戻れぬ人がいる。「フクシマ」への風評に苦しむ人もいる。「原発の問題はとても複雑です。情報が少なく、原子炉冷却で排出された汚染水についても、大丈夫だという人と、そうでない人に分かれます」。福島県出身者として、復興への道のりを支えたいという気持ちはあるが、「音楽を通して支援と口にするのはおこがましい。震災を実際に経験していませんので。被災者の思いを本当に理解することはできない」と、胸の内を明かす。
それでも、石川さんは音楽を作り続ける。「言葉で伝えるのは苦手。音楽でダイレクトな気持ちを伝えたい。言葉はなくとも、音楽は力を持っています。社会問題も音楽を通して人々の注意を引き付けることができればいい。僕の音楽から何かを感じてもらえるとうれしいですね」
「アメリカでの音楽活動を通じて出会った多くの人、そして日本で応援してくれている両親と兄に支えられ、今の自分がある。感謝の気持ちでいっぱい」
石川雅愛(いしかわまさよし)■福島県会津若松市出身。アメリカ生活は15年目。現在はミネソタ州のガステーバス・アドルフス・カレッジでジャズ・ピアノのプライベート・クラスを担当し、アメリカ中西部では数少ない日本人音楽家として活動中。http://masaishikawamusic.com