今年2月に日本で公開された映画『みんなの学校』は大変な反響を呼び、ロードショーが終わった今も、北海道から沖縄まで全国各地で自主上映会が行われている。シアトルでは2016年1月16日にアメリカ初の上映会が開催されることになった。主催するフォーテルデスティニーLLCのウォーカー依子さんに話を聞いた。
取材・文:越宮 照代
すべての子どもが同じ教室で学ぶ
この映画をシアトルで上映しようと思われた動機は何ですか?
ウォーカー依子(以下、ウ):『みんなの学校』は、2006年に分校として新設された大阪市立大空小学校のドキュメンタリー映画です。この学校では、校長先生の木村泰子さんという方が、「すべての子どもの学習権を保障する学校」を理念にして、 特別支援のいる子も普通の子も共に学ぶようにしました。そして不登校ゼロを実現させました。子ども、教師、地域の人たち、親たちすべてを巻き込んで、それを成功させたんです。公立学校でそういうことを実践するのは大変ですが、やればできるというその日々の試行錯誤の姿を、大人と教育者の方たちに見て欲しいと思ったのが、シアトルで上映会を開きたいと思った動機です。
でも、教育関係者に限らず、すべての人が見て学びがある映画だと思うんです。いやなことを言ってしまったときにはきちんと謝るとか、人をどうやってケアすればよいか、どうやって思いやればいいのかという、基本的なことだけど、今の私たち大人に欠けていることが映画の中に出てきます。
不登校ゼロにするというのはどういう意味なんでしょうか?
ウ:特別支援学級に行くような子どもたちは、クラスでじっとしていられないとか、奇声を発するとか、他の子に暴力を振るうといった問題を抱えているんですね。そういう子は本人もいづらくなったりして学校に来なくなるんです。学校を転々とするケースもあるようです。大空では、教室から子どもが飛び出したら職員が追いかけて行ったり、近所の人が協力したりと、地域ぐるみでの取り組みをしたんです。それに、生徒ひとりひとりが、ありのままで受け入れられているという環境が作り出されている。「誰でも安心、安全でいられる学校を目指す」が学校のスローガンで、そのためのたったひとつのルールが「人のいやがることをしない、言わない」これだけなんです。
子どもたちの学び
支援の必要な子どもたちにとっては救いですが、普通の子どもたちの親はどう受け取ったのでしょうか?
ウ:子どもの勉強の妨げになるのではないかという声が最初はあったようです。でも、学力テストの結果は高かったんですよ。いつもいろんなことが周りで起こっている中で勉強をしているので、集中力が養われるんですね。何よりも彼らは、支援の必要な子がいることが普通であると捉えられるようになるし、接し方も身につく。ある生徒が、どうやったら分からない子に分かるように伝えられるかを一生懸命考えるシーンが出てきますが、そういうところからの学びはすごく大きいと思います。
撮影クルーが1年間学校に入り浸って制作
映画になったいきさつは?
ウ:最初は、「不登校ゼロ」の評判を知った関西テレビが大空小学校に撮影の取材を申し込んだんです。木村さんは「表面的なことだけを取り上げるのだったらお断りします。1年間子どもたちと関わって、あなたもこの小学校の一員であってくれるのなら許可します」という返事をされた。そこで、クルーは1年間小学校に張り付いてテレビ番組を制作したのですが、それが文化庁芸術祭賞テレビ・ドキュメンタリー大賞を受賞し、それで映画化ということになったんです。500時間もの撮影映像の中で、監督としても45分では伝えきれないところがあったのでしょうね。
実は、大空小学校は私の息子が6年間にわたって夏の間だけ体験入学をしていた学校なんです。校長先生の木村泰子さんも知っているし、先生たちがどういう取り組みをしているかも見ていました。ちょうどテレビクルーが入っている時にも重なっていたので、クルーが子どもたち全員を知っていて、本当に学校の一員のようになっていたのを見ています。これはいいものができると思いました。
アメリカではこれが最初の上映会です。ひとりでも多くの人に見ていただきたいですね。
教育ドキュメンタリー映画『みんなの学校』シアトル上映会
日 時: 2016年1月16日(土) 10:50am、1:30pm、6:30pm
会 場: ベルビューカレッジ (N. #201, 3000 Landerholm Cir. SE, Bellevue, WA 98007)
チケット: 一般 $10、子ども(8~18歳)$5
内容: 不登校ゼロを目指す大阪市立南住吉大空小学校の取り組みを紹介し、第68回文化庁芸術祭大賞など数々の賞を受賞したテレビドキュメンタリーの劇場版。大空小学校では、発達障害を抱えた子、自分の気持ちをうまくコントロールできない子など、特別支援の対象となる児童も同じ教室で学ぶ。不登校ゼロを目指して、教職員、保護者、地域の大人たちだけでなく、子ども同士も一緒になり「みんながつくる、みんなの学校」のスローガンに取り組む姿を1年かけて取材した作品。8歳以上対象。
監督:真鍋俊永
上映時間:106分
www.brownpapertickets.com *当日、会場でのチケット購入可。
*上映会参加者の中から抽選で10人に木村泰子さんの著書『「みんなの学校」が教えてくれたこと』が当たる。
プロフィール:ウォーカー依子
Foretell Destiny LLC 代表。人材育成、教育関連に関わり20年になる。現在も日本とアメリカで、大人向け各種セミナー開催、進路(大人)個別指導を行う。ベルビューにてメディカル・アロマテラピースクールを運営。