Home インタビュー 「バイリンガール英会話」Y...

「バイリンガール英会話」Youtubeクリエイター 吉田ちかさん

 

「バイリンガール英会話」の動画でおなじみの吉田ちかさんは、実はシアトル育ち!
「好き」を仕事に輝き続けるちかさんの、その素顔とは。16年過ごしたシアトル、帰国後の日本での暮らし、そして人気YouTubeクリエイターとなった今を、たっぷり語ってもらいました。

取材・文:小林真依子

 

「好きを追いかけて、想像もしていなかった
ところにたどり着けた」

故郷、シアトルの思い出

「こんにちは~」

待ち合わせ場所に現れたちかさんの、あまりにも自然な登場ぶりは、まるで友だちとの待ち合わせかと錯覚してしまうほどだった。「バイリンガール英会話」視聴者のひとりとして、ちかさんとの初対面にドキドキの筆者だったが、話すうちにすっかり打ち解けていく。この気さくで飾らない人柄こそが、視聴者を引き付ける理由だとうなずけた。

現在、東京を拠点に生活するちかさんだが、シアトルは人生の大半を過ごした故郷。今も定期的に日本とシアトルを行き来している。今回の取材は、シアトルへの「里帰り」中に実現した。ちかさんが初めてアメリカにやって来たのは、小学1年生になる頃。父の仕事でアナコーテスへ家族で引っ越すことになったのだ。「友だちと離れるのは寂しいけれど、両親がいれば大丈夫ってくらいの感じだった」。何もかも全てが新しい生活。アナコーテスはアジア人が少ない土地柄だが、通った学校はみんなウェルカムで、良い環境に恵まれた。「休み時間になると、私の前に自己紹介の列ができて、担任の先生も英和辞書を引きながら何でも日本語にして話しかけてくれて。たとえばトイレでも、わざわざ“便所”と教えてくれたり(笑)」

英語は、子どもならではの順応性の早さもあり、小学3年生の頃までには問題なく話せるようになった。「両親はやりたいことを自由にさせてくれるタイプ。日本語の勉強は、家では100%日本語だったので、補習校と日本のテレビ番組を観るくらい」。平日は現地校に通い、土曜はベルビューにあるシアトル日本語補習学校に通った。週末はもっと遊びたかったが、補習校の帰りに宇和島屋と日本語ビデオレンタル屋に寄るのは楽しみだったという。仲の良い友だちもでき、忙しいながらも、のびのびとした日々を過ごしていた。

動画にもたびたび登場するクロイーさんは大学時代からの親友ちかさんがシアトルに来た際はいつもハングアウト

 

日本へ帰国して就職

起業に興味があったちかさんは、地元ワシントン大学のビジネススクールに進学する。「シアトルで日本式のネイルサロンをオープンさせたいと思っていたけれど、いざ卒業して起業となると自信がなくて」。就職活動は全くしていなかった。進路に迷っていたところへ転機が訪れる。父の「日本に戻ってみたら?」というひと言に背中を押され、気分転換を兼ねて日本へ行くことにしたのだ。「せいぜい半年、短期間の予定だった。それがふとしたきっかけで参加した就職フェアで、コンサルタント会社に採用が決まって。日本に帰ってから、もう12年も経っちゃった(笑)」

16年過ごしたアメリカから日本へ。帰国直後も逆カルチャーショックになることはなく、「どこへ行っても平気で、自分って日本人だなと思ったくらい」と当時を振り返る。とはいえ、1日のほとんどが日本語での会話。見た目は日本人だが、日本語はそれほど、という状態だったちかさんにとって、チャレンジングな環境であることに変わりはない。会社では、話す言葉が決まっているため不便はなかったが、流行や芸能人の話になると全くついていけなかった。自分が帰国子女だと話せばわかってもらえるものの、周囲からの不思議な反応に戸惑ったこともあったそう。日本ではほとんど誰も知らなかったため、友だち作りにイベントやミートアップ、合コンなど、積極的に出かけるようになる。「ソーシャルな場だといろんなテーマの話が出てくるから、そこで日本語がグンと上達した」。こうして友だちも増え、日本での生活が楽しくなっていった。

 

「バイリンガール」の誕生

ある日、友だちに英語履歴書の添削を頼まれた時のこと。「A」と「The」の使い間違いが多いことに気付いた。「これは需要あるかも」と、英会話動画のアイデアに結び付く。2011年、YouTubeで「バイリンガール英会話」をスタートした。初回の動画は「AとTheの使い分け」だ。

最初は本業と並行しながら、英会話動画を定期的にアップロード。視聴者からのコメントや反応もあり、動画作りが楽しくなると、気が付けばフォロワー数も増えていた。「もともと好きなことしかしたくない性格。コンサルタントの仕事はやって良かったけど、一生やりたいことじゃなかった」。2013年には、6年勤務したコンサルタント会社を退職した。YouTuberは今や小中学生の人気職業ランキング上位になるほどだが、その頃はまだ職業として認識すらされていなかった。「安定する保証もない職業だし、周りはさすがにびっくりしたみたい。メディアでは突然辞めたみたいに紹介されているけれど、ある程度キャリアとしてやっていけると思ってたので専念することに」。2014年にはYouTubeの公式CMにも出演し、「好きなことで、生きていく」というキャッチコピーと共に、お茶の間に知られる存在へ。チャンネル開設から7年経った今では、自身のプライベートや旅行、食レポ、リップシンク(口パクものまね)など、英会話学習にとどまらない、エンターテインメント性の高い内容を届けている。

今までの動画で思い入れがあるのは出産などライフイベント系のものあとでこんなことあったなと見返せるし作って良かった

「視聴者から面白くないというコメントをもらったことも。アンチの声には傷つくし、悲しい。でもそれだったらネガティブなエネルギーをポジティブに変えて、自分のものにしてやろうって思う」。英会話とかけ離れた内容だったが、当時流行していたK-POPスター、PSYのコスプレで「江南スタイル」を踊ってみた動画を投稿すると、コンテンツの幅が広がった。「自分は自分でしかない。私はたまたま持っていたものが英語だった。でも、英語にこだわってはいなくて、誰かを楽しませたり、きっかけを与えたり、迷ってる時に背中を押せるコンテンツでありたい」

おさるさんちかさんの夫のニックネームが英語でプロポーズに挑戦するも間違ってしまった動画それもまた良き思い出に

これまで、動画を通してさまざまなことに挑戦した。体当たりで水中パフォーマーを経験した時は、プールでジャンプやダンスをする自身の姿をコミカルにブログや動画に収めている。そうした動画から、何事にも果敢に取り組むイメージのあるちかさんだが、実はそうでもないと言う。「YouTubeがあるから、いろんなことができている。コンテンツを作ろうと思うと、自分の得意じゃないこともやろうと思える。動画では海外に行って、いろんな人と話しているけれど、もともとは社交的じゃないし、家にこもって作業しているほうが好きなタイプ。でも視聴者から、面白い、楽しい、勇気をもらったとコメントがあると、自分も頑張ろうって」

 

「ちか友」の輪を広げて

「ちか友」と呼ばれる視聴者ファンとの交流も、積極的に行っている。ちかさんのチャンネル登録者には、留学生やこれから留学したい人、または海外に興味がある人が多くいる。留学情報をもっと欲しいというコメントがあっても、自分は留学経験がないから発信できなかった。そんな時に、あるイベントで現役留学生に出会い、何か留学関係の企画を一緒にやろうということに。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に通う留学生2人が、自分たちの留学生活を紹介する動画シリーズをアップロードしたところ、多くの反響があった。そこで、さまざまな留学の形を紹介するべく、「ちか友留学生活」というプロジェクトを発足し、動画コンテストを開催して世界各地で留学する投稿者からの動画を募集した。

「正規留学だけが留学ではなく、語学留学や音楽留学、オペアと、ひとつだけの形じゃない留学をもっと広めたい」。今年の動画コンテストには23カ国98作品の応募があり、2017年の開始から動画は合計250本に。「どれもクオリティーが高く、選ぶのが難しい。コンテスト形式にしなければ良かったと思うほど(笑)」。最近、専用ウェブサイトも立ち上げ、国、留学スタイルなどの条件を選択し、該当する留学生のコラムや動画を検索できるようにした。まさに、現役留学生と留学したい人をつなぐプラットフォームとなっている。「今後は海外で働いている人や生活している人と、海外へ行きたい人をつなげられたら」と、新たなアイデアも出ている。

 

結婚、出産を経て、新しいステージへ

YouTubeクリエイターに転身後は、プライベートでも変化が多かった。2015年12月に結婚、今年6月には待望の第1子を出産した。シアトル育ちの身で、日本にいる今の自分は全く想像できなかったと話すちかさん。「日本人と結婚するとも思っていなかった(笑)。好きを追いかけて、想像もしていなかったところにたどり着けた」。夫は在宅でも仕事ができるため、二人三脚で子育てに奮闘中。母になり、毎日が新しいことばかりだが、「動画を作ることが子育ての気分転換になっている」そうだ。

第1子プリンちゃんと共にプリンが本名だと思われてるんですがニックネームです

動画作成に当たっては、企画、撮影、編集、アップロードの全てをひとりでこなす。今年9月には、トラベル英会話本も発売。スマートフォンのアプリと連動し、旅先で英会話フレーズを音声で確認できるようにした。いろんな人に自分の思いをシェアしたい。そんな思いが動画や書籍になって、世界中に発信される。「動画もYouTubeもプラットフォーム。英会話と関係のない食レポも、最終的に『英語、楽しいかも』っていうきっかけにつながったらうれしい。これからも情報の発信者でありたい」と語る。

目標や新しいアイデアに向かって進み続け、実現する姿は本当に魅力的だ。しかし、ちかさんは「私はみんなが思っているほど情熱的じゃない」と打ち明ける。「パッションがないことが悩みだった。好きなことはあるけれど、自分が何か変えてやる!という目標に向かっているわけでもなくて。でも、目標がないことで、人生何が起こるかわからない、どこにたどり着くのかがわからないところはメリットでもある。やらない自分も、やる自分も、自分次第」。筆者も含め、自分のやりたいことを模索し続けている世代には、ハッとさせられる言葉だ。シアトルで英語を頑張る読者にも、エールをもらった。「私は小さい頃にアメリカに来たから英語を話せるというだけ。言語を学ぶことは本当に大変だと思います。だからこそ楽しんで勉強することがいちばんではないでしょうか。日々の勉強や語学習得は苦労もあると思いますが、そのひとつの方法や息抜きとして、私のチャンネルを見に来てくれたらうれしいです」

目標がないことで、
人生何が起こるかわからない、
どこにたどり着くのかがわからないところは
メリットでもある。

やらない自分も、やる自分も、自分次第

 

吉田ちか■父の仕事の関係で小学1年生の時にシアトルへ。ワシントン大学・ビジネススクール卒業後、日本に帰国し、大手コンサルティング会社に就職。金融機関のシステム関連プロジェクトに従事する傍ら、2010年から2年間、銀座にてネイルサロンを経営。2011年よりYouTubeで英語学習コンテンツ「バイリンガール英会話」を開始。エンターテインメント要素を盛り込み、楽しく自然に英会話に親しめるような動画を配信中。チャンネル登録者数124 万人を超える。
YouTubeチャンネル「バイリンガール英会話」

 

最新書籍

『HELP me TRAVEL 旅が100倍楽しくなる英会話』(実業之日本社)


旅行中に使える英会話を場面別に紹介。スマートフォンのアプリ「Help me Travel – 旅行英会話」(iOSのみ対応)と連動し、通信環境がなくても発音や例文が聴ける。

 

『人生で一度はやってみたいアメリカ横断の旅』バイリンガールちかの旅ログ(実業之日本社)

今年3月、ニューヨークからロサンゼルスまで車で大横断した人気動画シリーズを書籍化。動画にはない裏話もいっぱい!

ちか友ミートアップに行ってきました

9月10日、ベルビュー・ダウンタウン・パークで開催された、ちか友ミートアップ。前日の告知にもかかわらず、100人ほどのちか友が大集合! 生のちかさん登場に「かわいいー」「本物だー!」と歓声が上がる。サプライズで、ちかさんの友人であるクロイーさんも登場。しばらくの間、ミート&グリート、写真撮影を楽しんだ。

  • 留学前には、ちかさんの動画を見て英語を勉強しました。ちかさんは思ったより小柄で、動画そのままですね (21歳 男性)
  • シアトルにいるからこそ、ちかさんに会えるチャンスに恵まれました。動画をずっと見ていたので、今日は夢みたいです(22歳 女性)

All Photos By おさるさん