シアトルの知恵ノート
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新型コロナワクチンを徹底解説
アメリカで開始されているコロナワクチン接種。シアトルでも接種経験者の声が聞かれるようになりました。ワクチンの仕組みから接種後の副反応まで、改めておさらいしておきましょう。
コロナワクチンができた背景
昨年1月に米国内初の感染者が確認されて以来、アメリカでの感染者数は増加を続け、今年2月には新型コロナウイルスによる死者が50万人を超えました。3月現在、新規感染者数の数は減少傾向にあるものの、世界最大の感染国であるアメリカでの感染者数は1月時点で累計2,500万人を突破し、その件数は世界全体の25%に相当します。
新型コロナ感染が確認されてから、さまざまな治療薬の研究が世界中で行われています。アメリカでは、感染初期に中和抗体治療薬(Monoclonal antibodies treatment)や回復者血漿(けっしょう)療法(High-titer convalescent plasma)などを用いることにより、ハイリスクな患者の重症化を防ぐことができたとの報告もされていますが、研究結果は限られています。入院患者への治療としては、酸素投与などの緩和治療と並行し、既存のステロイド剤や抗ウイルス薬が使用されています。しかし、特効薬と呼べるものはまだなく、現在も実験が続けられています。
このような背景を踏まえ、新型コロナウイルス対策として重要視されているのが、厳重な感染予防。個人で行う予防対策(6フィートのソーシャル・ディスタンス、マスクの着用、密集の回避、正しい手洗い)はさまざまなところで繰り返し推奨されていますが、残念ながら全員が徹底した対策をしているわけではないのが現状です。
そんな中、昨年12月にFDA(米食品医薬品局)より、ファイザー社とモデルナ社の2つの新型コロナウイルスワクチンの緊急使用が許可されました。2月時点で、4,100万人が少なくとも1回目のワクチン接種を受けており、また同月に日本でも医療従事者を対象にワクチン接種が開始されました。2月27日には、ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下J&J)の製薬部門、ヤンセンファームのワクチンが、FDAの緊急使用許可を得ました。ワクチンの実用化は長く続くパンデミックの収束への糸口として大きな注目を集めており、アメリカを含むさまざまな国でワクチンの接種が進められています。
その一方で、新しく開発されたワクチンは通常より早いプロセスで使用許可が下りたということもあり、不安や疑問を持っている方も多いかと思います。そんな新型コロナウイルスのワクチンについて、FDAやCDC(米疫病対策センター)の情報を元に、自分や友人の体験を交えながら説明していきます。
ワクチンの有効性
昨年許可されたモデルナ社とファイザー社のワクチンは、十分な予防効果を得るためには、両方とも2回の接種が必要です。2回接種後の有効性はファイザー 社が95%、モデルナ社が94.1%と言われています。これは、ワクチンを接種した人としていない人を比べて、感染率が94〜95%減少したということになります。
ワクチンの接種後すぐに免疫力が発揮されるわけではなく、最低2週間ほどの時間がかかります。1回目接種の約2週間後の有効性はさまざまなデータが出ており、50%とも92%とも言われています。ワクチンの供給不足のため、なるべく多くの人に1回目の接種を勧め、2回目を遅らせる動きも出ているようですが、確実に免疫を作るためには2回の接種が勧められています。
J&Jのワクチンの有効性は66%と言われています。数値が他社よりも低いのは、新しく変異株が発見されている世界各地での治験データが含まれているためと思われ、米国内の有効性は72%という結果でした。J&Jのワクチンは1回の接種で免疫力を付けることができ、病気の重症化を防ぐには十分効果的と考えられています。どのワクチンも、南アフリカやブラジルなどで発見されている変異株への有効性は少し下がると見込まれていますが、それでも、現在のワクチンが全く効かないわけではなく、変異株向けの追加注射の開発もすでに始まっています。
ワクチンの副反応
FDAが許可したワクチンは安全性が確認されたもので、重症な有害事象(Adverse effects)はまれです。アナフィラキシーショックのケースは、ファイザーは100万回に11回、モデルナは100万回に2.5回の割合で報告されています。アナフィラキシー症状はほとんどの場合、ワクチン接種後15分以内に発症するため、ワクチン接種後15〜30分は接種場所での待機が推奨されています。現在報告されているその他の有害事象は、コロナワクチンだけでなく、他の筋肉注射の予防接種でも起こり得る事例がほとんどです。多く報告されている軽度の副反応は、接種部位の痛みや腫れ、発熱、頭痛、筋肉や関節の痛み、だるさ、寒気などですが、これからの症状は免疫を作る過程で生じる身体の反応です。ですが、副反応がないからと言って、ワクチンが効いていないというわけではありません。1回目よりも2回目の接種後の副反応のほうが重い人が多く、55歳以下の方は反応が出やすいという報告があります。私の周りでも、お年寄りの患者さんより、若い医療従事者のスタッフのほうがひどい副反応が出ている印象です。多くの副反応は、注射をしてから3日以内に発症し、その後おおよそ24〜48時間以内に回復します。熱や筋肉痛で辛い場合で、アレルギーなどがない方は、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛剤を使用しても大丈夫です。
ワクチン対象者
ファイザー社のワクチンは16歳以上、モデルナ社のワクチンは18歳以上が対象となっています。現在、12歳以上の小児を対象とした臨床試験も開始されているほか11歳以下を対象とした臨床試験も近く始まると発表されており、将来的には対象年齢の幅も広がっていくと思われます。
治験の段階で妊婦は対象者に含まれていませんでしたが、今までワクチンを接種してきた人たちの中には妊婦の方もおり、現在のところ妊娠経過に問題があったという報告はありません。胎児に対する影響なども含め引き続き追跡調査が行われています。妊婦の方は新型コロナウイルスに感染した場合、重症化や早産の危険性が高いため、CDCでは妊婦にもワクチン接種の機会を与えられるべきとの立場を取っています。授乳中の女性や、母乳への安全性と影響のデータも今はまだ十分ではありませんが、承認されているコロナワクチンは授乳中の子どもに与える危険性は少ないと考えられています。免疫機能が低下している人への接種も安全とされています。
また、これまでに新型コロナウイルスに感染した人たちにもワクチン接種は推奨されています。これは、実際の感染でできた抗体がどれだけ長く有効なのかが調査中であり、一度感染した人が再び感染した事例もあるからです。現在、ワクチン接種が推奨されていないのは、ワクチンの成分(PEGやPolysorbateなど)にアレルギーを持つ人か、1回目の接種後にアナフィラキシーを起こした人たちとなります。
ワクチン接種までの流れ
ワクチンの供給数の制限により、ワシントン州では予防接種対象者を段階(フェーズ)に分けています。初期段階では医療従事者や長期施設入院の高齢者からワクチン接種が開始されましたが、1月18日より65歳以上の人や多世帯住宅に住む50歳以上の人も対象となっています。3月4日には、学校の教員・職員、チャイルドケアワーカーも対象に含まれました。自分が対象者かどうかは、ワシントン州保健局(Department of Health)が提供している、「Phase Finder」で知ることができます。また、どのクリニックやワクチン接種センターでワクチンを受けられるかという情報も、保健局のサイトで調べられます。
2回の接種が必要となるファイザー社のワクチンは1回目の接種から3週間後、モデルナ社のワクチンは1回目の接種から4週間後に2回目を受けることになります。それよりも早く2回目を受けることは推奨されていませんが、前後4日間の猶予は考慮されており、遅くとも6週間以内の接種が勧められています。もしその期間を過ぎてしまったとしても、1回目から接種し直す必要はありません。J&Jのワクチンは1回の接種で完了となります。
現在はどのワクチンを打つかの選択はできず、クリニックの供給によるものとなります。1回目と2回目のワクチンは、同じ会社のものを接種するのが基本ですが、供給などの問題でどうしても1回目と同じ会社のワクチンが手に入らない緊急時のみ、CDCでは別会社のmRNAワクチン(本欄下コラム参照)でも良いとしています。
ワクチン自体は、保険の有無にかかわらず無料です。医師などがワクチンを注射する際にかかる費用も保険や政府の予算で賄われます。
まとめ
ワクチンから得られる免疫の持続期間や、長期にわたる安全性、変異株のコロナウイルスへの有効性など、これからも引き続き研究と調査が必要となります。インフルエンザ予防接種のように毎年必要なのかどうかも、まだ答えは出ていません。ワクチン接種と並行して、CDCのガイドラインに従いながら、今まで行ってきたマスク着用・手洗い・ソーシャル・ディスタンスを守るという対策も引き続き行っていくことが大切です。
ワクチンの接種が進められている国々からは、新型コロナウイルスの感染率低下のニュースも届いてきています。以前のような生活を少しずつ取り戻すためにも、自分のためだけでなく、自分の大事な人のために、ワクチン接種を積極的に考えてもらえればと思います。
ワクチンを接種することで新型コロナウイルスに感染をしたり、ヒトのDNAに影響が及んだりする可能性はあるのでしょうか?
ワクチンを接種することにより、あらかじめウイルスや病原体に対する抵抗力(=免疫)を作り、その病原体が体に侵入した際に対抗できるようになります。ワクチンの目的としては、以下の4つが挙げられます。
❶ その病気にかからないため
❷ かかっても症状を軽症化させる
❸ 周りの人にうつさない
❹ コミュニティー内での感染拡大を防ぐ
ワクチン接種には、❶と❷の個人防衛以外に、❸と❹といった社会的防衛を果たす効果もあり、周りの人の感染を防ぐうえでも重要な役割を担っています。そして、新型コロナウイルスに対する集団免疫を達成するためにはコミュニティーで70%以上の接種率が必要だと言われています。 現在アメリカで使用されている新型コロナウイルスのワクチンは、「mRNA(メッセンジャー・アール・エヌ・エー)ワクチン」と「ウイルスベクターワクチン」と呼ばれる新しいタイプのものです。
COVID-19
ヒト細胞
新型コロナウイルスは、表面上にある突起状のスパイクたんぱく質がヒトの細胞に結合し、融合することで感染が始まります。mRNAワクチンは、そのスパイクたんぱく質の設計図を含んだmRNAと呼ばれる遺伝子材料を体内に接種することにより、ヒト細胞にスパイクたんぱく質を作らせます。ヒト細胞が作ったスパイクたんぱく質を目印に、体内で抗体を作る免疫反応が誘導されます。 新型コロナウイルス向けのウイルスベクターワクチンも、ヒト細胞にスパイクたんぱく質を作らせて免疫反応を誘導することを目的としていますが、mRNAではなく、人体に無害なアデノウイルス(一般的な風邪の原因となるウイルス)を「遺伝子の運び屋(=ベクター)」として、スパイクたんぱく質のDNAを体内に接種するものです。これらの免疫反応によってできた新型コロナウイルス用の抗体は、実際にウイルスが侵入してきた時の武器となり、感染を防ぎます。これらのワクチンは、ウイルス自体を接種するわけではないので、ワクチンのせいで新型コロナウイルスに感染することはありません。ワクチンとして接種され役目を終えたmRNAやアデノウイルスベクターは分解されるため、体内には残らず、ヒトのDNAに影響を与えることはありません。
本田まなみ■福祉・医療・法律などの情報を日本人に発信するボランティア団体「 JIAコミュニティーはあとのWA」 代表。ワシントン大学大学院(Doctor in Nursing Practice)を卒業後、ナースプラクティショナーに。ノースウエスト・ジェリアトリクスに勤務し、シアトル近郊のナーシングホームや高齢者住宅を中心に、亜急性ケアおよびプライマリー・ケアを提供する。
はあとのWA Heart no WA!
contact@heartnowa.net
www.heartnowa.net
参考リンク:
https://www.fda.gov/home
https://www.cdc.gov/
https://www.doh.wa.gov/