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アートの始め方〜モチベーション&アイデア編

シアトルの知恵ノート

シアトルで活躍するさまざまな専門家の方に、知っておくと暮らしが豊かになるヒントを聞きました!

アートの始め方 モチベーション&アイデア編

新型コロナによるパンデミックを機に、おうち時間を利用してクラフトや絵画など新しい趣味に挑戦してみた人は多いのではないでしょうか。アーティストの太田翔伍さんに、「モチベーション&アイデア編」、「実践編」の前後編にわたり、アートの基礎知識を教えてもらいます。

人に見せないアート作品があっていい

太田さんの作品レレレのヘリングその見た目と名の通り80年代を代表するアメリカのアーティストキースヘリングと赤塚不二夫の代表作をモチーフにした遊び心あふれるオマージュ

新型コロナウイルスの影響でリモートワークが増え、息抜きに飲みに出かけたり遠方へ旅行したりすることも困難という状態が1年以上続きました。パンデミック以前の生活とは違った新しいライフスタイルが定着する中、心のどこかに隠していた情熱・趣味を掘り起こしてみた人は少なくないでしょう。水彩画をまたやってみよう、インディゴで染物をしたい、いやいやこの際、まるまる1本木の彫刻をチェーンソーで作ろうか……などなど、アートに興味を持つ人も増えたことと思います。

私は2006年からここワシントン州でアート&デザインを手掛けていますが、好きなことを仕事にするといろいろ苦労もあります。知人の中にはメディテーションのような精神的エクササイズとして、内面の充実、達成感などを目的に絵を描く方もいます。つまり、アート制作に当たり、周りの反応などを気にする必要はありません。思い切って始めてみることが大きなファースト・ステップです。

情報収集とお気に入りの道具が、やる気持続のカギ

ただ、いきなり紙とペンを渡されて、「何かカッコイイものを制作してください」と言われても困りますよね。初心者の方にも少し上級者の方にもおすすめなのが、興味のある分野のアーティストの作品などをSNSでフォローする、アート本を購入するなど、多方面から思考のリセットしてみること。仕事の場合、プロジェクト前はかなりのリサーチが必要になります。1日をそれだけに費やすこともあるくらいです。毎回、何百ものサンプルをチェックし、頭の中である程度の方向性やアイデアを整理できたら、ようやくスケッチに入ります。そこから編集、またスケッチ、提出、ミーティング、また編集……の繰り返しになるわけです。

そこまでしたくないぜ、もっと楽しく自由にできないのか、となりますよね。気楽にアートに挑戦してみたい、でも途中で放り出すのはイヤ。そんな方は、形から入るのはいかがでしょうか。私もこだわりの道具をそろえるのが好きで、クオリティーの良い筆と紙、格好良くデザインされたペンや道具箱は思わず購入してしまいます。それも趣味の一環と捉えられますし、ツールを新調することで「せっかくだから使わなきゃ!」と、やる気も湧いてくるものです。実際、質の良いものを使うと仕事がはかどり、完成度も上がります。ステイホームで浮いた飲み会代、旅行代を少し、趣味に投資してみてはどうですか?

アイデアは発展するもの

インスピレーションの話をします。まず、何を描きたいのかビジョンを持ちましょう。たとえば「花」をテーマにするとします。常にアンテナを張っていると、近所を歩いている時も、道に生えている草花、あるいは誰かの家の庭先を見てイメージできます。店内や友人宅の絵画、インターネットで見つけた映像や写真など、いろいろな「花」を意識して過ごします。けれど、それだけ描いても面白くないと思うかもしれませんよね。

アクリルやスプレーなど異なる手法を取り入れた太田さんによるミックスメディア作品

想像してみてください。今あなたの目の前にポラロイド写真がクリップで吊り下がっているとします。花弁に多数のクリップが付いていたら? クリップで花を吊るして描いたら? むしろクリップだけで花を表現してみたら? このようにアート思考を取り入れると、可能性がぐんと広がります。

趣味のうちは完成度を気にする必要はないと思います。まずはプロセスや新しく購入した道具を楽しんでみてはどうでしょうか。継続していくうちに、スキルはすぐ身に付きます。プロが描く漫画でも、1巻と35巻の描写力が違うように、自然と上手になるものです。友だちから小さな作品を依頼されたと思ったら、次は他人からのオファー、近くのカフェで展示会を開くまでになり、気が付けば某有名コーヒー会社から壁画の依頼など来るかもしれませんよ。

太田翔伍■岐阜県出身。日本の高校を出て、アイダホ大学でアートを専攻し卒業。シアトルのデザインスタジオ、モダン・ドッグ・デザイン・カンパニーにインターンを経て入社し、2012年にタイヤマン・タジオを立ち上げて独立。スターバックスやグーグル、フェイスブックなど、さまざまな企業やブランド、プロダクトとのコラボレーションの実績を持つ。

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