子どもとティーンのこころ育て
アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。
子どもが進んで宿題をするようになる~マズローの欲求5段階説~
師走に入り、何かとあわただしい日々が続いていますね。やるべきことはたくさんあるのに、やる気が出なくてつい後回しにしてしまうことはありませんか。子どもも同じように、学校から帰って来てすぐに取りかかれば終わる宿題なのに、ギリギリになってからやるというパターンに陥っている場合も。今回は、子どものやる気をぐんと引き出す方法を紹介します。
もともと人間には何かを追求したい、成し遂げたいという自己実現の欲求が備わっています。アメリカの心理学者、アブラハム・マズローは、私たちの欲求や行動の動機には5つの段階があるとしています。第1段階は、生物として不可欠な食欲や睡眠欲などの「生理的欲求」で、この欲求が満たされると、第2段階である安心して安定した暮らしをしたいという「安全欲求」が生まれます。
安全欲求が満たされると、第3段階である友だちや仲間と一緒にいたいという「社会的欲求」が芽生えます。その次に生まれるのが、第4段階の「承認欲求」であり、これには他者から認められたいという欲求と、自分は自分のままでいいと受け入れる自己肯定感も含まれています。
最後の段階である「自己実現の欲求」は、人生で本当にやりたいことを実現するため自分を磨き、能力を最大限に発揮したいという、まさに人間を人間たらしめる欲求です。物理的、経済的に恵まれている人でも、承認欲求や自己実現の欲求が満たされていない場合、強い不安や無力感を感じたり、うつ状態になったりする場合があります。
また、この欲求の5段階は必ずしも順番に進んでいくのではなく、たとえば社会的な欲求や承認欲求が満たされていなくても、自己実現を目指す人たちは大勢います。自己実現の欲求は、他者から言われたからではなく自分がやりたいという「内発的動機づけ」に基づくもので、「好きこそものの上手なれ」ということわざ通り、自発的にどんどん知識や経験を身に付けていきます。
これと対照的なのが「外発的動機づけ」であり、たとえば成績が良かったら欲しいものを買ってもらえるなど、報酬や罰による動機づけです。こうした賞罰はうまく使うと非常に効果的ですが、使い方によっては逆効果になる場合も。子どもがやりたくて始めたおけいこでも、親が介入してお金やモノなどの報酬を与えることで、純粋な好奇心である内発的動機づけが低下してしまう「アンダーマイニング効果」などがその一例です。
それでは、子どもが宿題や手伝いを進んでやるようになるためには、具体的にどうすればいいのでしょうか。内発的動機づけのカギとなるのは、自分で決めたという「自己決定感」、自分はやればできるという「自己効力感」です。また、外発的動機づけであっても、自己実現の欲求とうまく結びつけ、自分の将来の夢につながるものと考えれば、目標を達成したいという「達成動機」が高まり、内発的な動機づけに近付きます。
まずは、小さなことでもいいので子どもに決めさせて、自己決定感と達成動機を高め、できたら努力や達成した成果を褒めて、自己効力感を強化してあげましょう。
ハーバード大学の歴史で最も長いという75年間にわたる調査によると、成功している幸せな人の共通点として、子どもの頃、よく手伝いをしていたという結果が出ています。仕事の現場ではやりたくないこともやる必要がありますが、継続して手伝いをすることで粘り強く仕事に取り組む姿勢を身に付けられるとのこと。こうした情報を子どもにも伝え、宿題や手伝いは、将来に自分の夢をかなえることに直結するのだと納得してもらうのも手です。
また、子どもの集中力の持続時間(小学低学年で15分、高学年で30~40分、中高生で45~60分)を念頭に置いて、何をするのかを具体的に紙に書き出し、テーブルや机の上を片付けて集中できる環境を整えましょう。席に着いたら最初に落書きでもいいので何か一緒に書くなど、手を使わせると脳が動き出します。自己決定感と達成動機をうまく使いながら、粘り強く作業に取り組む姿勢を子どもに身に付けさせることが大切でしょう。