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気付かないうちに感情を押し殺していない? 「知性化」の弊害〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

気付かないうちに感情を押し殺していない?
「知性化」の弊害

子どもが怒り、泣き叫ぶのを強く叱ったり罰したりすると、無意識に怒りや悲しみなどの感情を遮断してしまい、感情表現がうまくできず、思春期や大人になってうつや不安、パニック発作などのさまざまな心の病気を起こす可能性があります。今回は感情をため込んでしまう防衛規制、「知性化(Intellectualization)」について紹介します。

防衛規制とは、心理的ストレスから人間の心を守るために必要な手段で、精神分析学の父であるジークムント・フロイトが提唱した概念。防衛規制は娘のアンナ・フロイトにより細分化され、「知性化」もそのひとつです。事実を説明し、論理的に分析を行うことで、何も感じないようにする無意識の防衛メカニズムです。つらく苦しい気持ちを閉じ込め、客観的事実の追求や状況観察などにエネルギーを費やします。

たとえば、深刻な病気の診断を受けた人が治療法や体験談を調べ続けたり、告白して断られた人が「振られる確率は成功する確率よりも高いんだ」と統計的な事実を語ったりします。聞いている側は「まるで他人事のようだ」と思いますが、本人は知性化に気付いていない場合がほとんどです。

知性化の防衛を過度に使う人の多くは、子ども時代に怒りや悲しみなどの気持ちを表現すると、親から頭ごなしに叱られた経験をしています。機嫌を損ねないよう、親の行動を観察、分析するのに集中しているため、自分が今どう感じるかという体の感覚に注意を向ける余裕はありません。

また、愛情ある家庭環境でも、「泣いたらダメ。笑っていなさい」などと、親から怒りや悲しみといった負の感情を否定され、無理してでも良い気分であるかのように振る舞うことを奨励されると、嫌な気持ちを感じるのは悪いことだと思い込み、回避しようとします。その逆に、情緒不安定な親の元で苦労して育った子どもも、親を反面教師として知性化を強める傾向にあります。

知性化は必ずしも悪いものではなく、感情に振り回されずに社会生活を円滑に進めるための大事なスキルです。十分に発達しないと、人とトラブルを起こしたり、誰かに依存したりしてしまう場合も。一方、知性化を多用し過ぎても、感度が鈍くなり、嫌な気分どころか良い気分さえ、あまり感じられなくなります。好きなことをしているはずなのに楽しめない、ドラマや映画を観ても感動できないなど、周りの人たちからは「知的だけれど面白味のない人」という印象を持たれます。充実した生活を送っているようで、空虚感を埋めるためだけに約束を詰め込んでいる人も大勢います。そうした人は、深い感情のつながりを無意識で求めているので、近い存在に対してはため込んだ不安や怒りを爆発させ、支配的になる傾向が見られます。

知性化を多用して自分の心を守ってきた人は、心の奥底にため込んだ感情の上に大きな知性化の重しが乗った状態。いきなりその重しを取り除くのは難しいかもしれません。まずは、ほっとできる場所で、自分の体の感覚を解釈なしにただ感じることから始めましょう。このコラムでも紹介したマインドフルネスの呼吸やボディー・スキャン瞑想などで、緊張した部分や重い部分がないかどうか、体感を探ります。それを感じれば感じるほど、体の奥底から湧き上がってくる感覚をただ味わえるように。この感覚こそ、「今ここ」や「ありのまま」の状態、つまり自然や生命のエネルギーそのもので、その体の感覚に名前を付けて言葉で表現したのが「感情」です。

より感情が豊かになれば、人生も豊かになります。子どもには、「どんな気持ちもあなたに必要なもの。今の自分の気持ちを思いっきり味わおうね」と教えましょう。嫌な気持ちも十分に聞いて、一緒に感じてあげてください。こうして親子で日々、心の結び付きを深め、お互いに人生を豊かにしていけるといいですね。

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長野 弘子
ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com