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夏休みを最大限に生かして子どものやる気を引き出す方法〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

夏休みを最大限に生かして
子どものやる気を引き出す方法

約2カ月半と長いアメリカの夏休み、子どもには充実した時間を過ごして欲しいですよね。そこで今回は、子どものやる気を引き出し、将来役に立つ習慣をひとつでも身に付けてもらうためのコツを紹介します。

まず、やる気と言っても、2種類あるのをご存じですか? 心理学者のエドワード・L・デシ氏は、自分の興味や好奇心から湧いてくるやる気を「内発的動機付け」と呼び、それにより充実感、達成感、自己成長感といった「内的報酬」を得られるとしました。ゲームなどに夢中になっている子どもは、内発的動機付けにより喜びや充実感を覚えている状態。その逆に、給与、地位、評価など外から与えられる報酬を「外的報酬」と呼び、報酬をもらえるから、もしくは罰を受けたくないので行動することを「外発的動機付け」によるものとして区別しました。

報酬と罰に基づく外発的動機付けは即効性が期待できる一方で、報酬慣れしてしまい、報酬がなくなれば行動しなくなるリスクも。外発的動機付けが必ずしも悪いというわけではありません。お手伝いや宿題を何も言わずに進んでする子どもは、ほんのひと握り。行動を渋る子どもに対して、それが終わったらゲームや動画などのご褒美を与えるのは有効な手段です。ただ、外発的動機付けを多用し過ぎると、内発的動機付けによる行動の意欲を下げることにもつながります。

1969年にデシ氏が行った心理実験では、立体パズルを解いたら1ドルを受け取るグループ、受け取らないグループに分けてパズルを行ってもらいました。すると、外的報酬を受け取ったグループのほうが、パズルに取り組む時間が短いという結果に。デシ氏は、外的報酬が与えられたことでお金のためにやっているという意識が生まれ、パズルを解くことの純粋な楽しさ、つまり内的報酬が損なわれて内発的動機付けによる行動が減ったためと結論付けました。

こうした、外的報酬により逆にやる気が損なわれる現象を「アンダーマイニング効果」と呼びます。たとえば、趣味で続けていた音楽やアートが仕事になったとたんにやる気が失われたり、好きでやっていた勉強やお稽古事も親からご褒美にお金をあげると言われて興味をなくしたりする場合があります。人間は、自分のやりたいことを外部から強制されるのではなく自分で決めて行動する時に、より創造的になって行動を持続できるのです。

それでは、どうやったら外発的動機付けを内発的動機付けに変え、子どものやる気を高めることができるのでしょうか? デシ氏によると、内発的動機付けを高めるためには、次の3つの欲求が必要だとしています。

内発的動機付けを高めるのに必要な欲求
自律性:やりたいことを自分で決めて行動したいという欲求
有能感:自分の力で物事に取り組みたいという欲求
関係性:他者に価値を認められ尊敬されたいという欲求
まずは、何でも良いので、子どもにいろんな経験をさせてあげましょう。選択肢を与えて、自分のやりたいことは自分の意思で自由に決められるのだという「自律性」の欲求を満たします。いろんな経験をして、小さな成功体験をたくさん積み重ねることで、自分はできるという「有能感」も高まります。また、頑張ったことや努力を褒めると、価値を認められて尊敬されたいという「関係性」の欲求も満たせるでしょう。褒め言葉と叱責に関する心理実験でも、テストの答案を返すときに褒められたグループは点数が大幅に伸び、叱責されたグループは最初こそ多少伸びたものの、後半に低下したとの結果が出ています。

このように、外発的動機付けにより内発的動機付けが高まり、やる気が伸びることを、「エンハンシング効果」と言います。子どもを褒め、感謝やお礼の言葉をかけることで、エンハンシング効果を高めていきましょう。「夏休みに1冊本を読む」、「漢字を1日1個覚える」など、子どもが自分で目標を決めることができたら、内発的動機付けが育っている証拠。ますます子どもの興味や好奇心が膨らむ夏休みになるといいですね。
参考:

■Self Determination Theory and How It Explains Motivation
https://positivepsychology.com/self-determination-theory/

長野 弘子
ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com