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現代の「奴隷制」、日米で見えてきた子どもの人身取引・性加害の闇〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

現代の「奴隷制」、日米で見えてきた
子どもの人身取引・性加害の闇

アメリカでは、スーパーのチラシにも失踪した子どもの写真が掲載されるほど、誘拐を含めた子どもの人身取引(人身売買)が増えています。人身取引とは、立場の弱い人を支配下に置き、売春や強制労働をさせたり、臓器売買を行ったりする深刻な犯罪行為。脅迫や暴力、誘拐、詐欺などがあれば、たとえ被害者が同意していても人身取引とみなされ、被害者が18歳未満の場合は、それ以外の状況でも人身取引に該当します。

国際労働機関(ILO)が2022年に発表したデータによると、人身取引の被害者は2016年から2021年までの5年間で1,000万人も増え、推定5,000万人に上ります。内訳は約2,760万人が強制労働(そのうち約630万人が性的搾取)、そして約2,200万人が強制婚となっています。また、公益社団法人のセーブ・ザ・チルドレンの調べでは、人身取引全体で子どもが占める割合は約27%とのことです。

アメリカで今夏公開された、子どもの人身取引の実情に迫る映画「サウンド・オブ・フリーダム」では、世界で200万人もの子どもが毎年連れ去られ、性奴隷や臓器売買の犠牲になっており、奴隷制時代の被害者数を超えているという衝撃的な事実が明かされました。連れ去りの多くが南米やアジア地域で行われ、悲しいことに、その大半がアメリカの富裕層の元へ送られています。

「ドラッグは一度売れば終わりだが、子どもは高値で何度でも売れる」という信じがたい理由で、多額な利益を生むビジネスとして拡大の一途をたどる人身取引。政情や経済が不安定な地域を狙い、ボランティアを装って割の良い仕事を紹介するとだまして連れ出し 、暴力で無理やり服従させる犯罪行為が横行しているのです。このウクライナ危機でも例に漏れず、支援者になりすました犯罪組織によるウクライナ難民の被害が報告されました。

身の毛のよだつような人身取引は、日本でも被害が続出。犯罪者はSNSやオンライン・ゲームのチャットなど至るところにいて、子どもたちをグルーミング(犯罪行為を目的に子どもを手なずける)して、実際に会う機会を虎視眈々と狙っています。モデルやタレント事務所を装いポルノ動画への出演を強要、オンラインで親密になり性的な画像や動画をばらまくと脅して風俗で強制労働させる、などが典型的な手法。

アメリカでも同様にさまざまな犯罪が潜んでいます。モデルになれる、短時間で稼げるといった甘い言葉に惑わされて、通常の生活を続けながらホテルやオンラインなどで性的に搾取される子どもたちが大勢います。私たちは子どもを守るために、何ができるでしょうか? まずは、こうした人身取引の現状を知ることが必要です。加害者のほとんどは知り合い。オンラインで仲良くなったからと気軽に会うのは危険だと子どもに繰り返し教えましょう。次に、子どもが人身取引に関わっているサインに気付くこと。以下のような兆候が見られたら要注意です。

• 頻繁に学校を休んだり授業を抜けたりする。
• 帰宅時間が遅くなる。
• 体にあざや傷が目立ち、ぼーっとしているか不安な様子を見せる。
• 支配的で年齢がかなり上の恋人ができる。
• 服装やメイクが急に派手になる。
• ドラッグをやっている疑いがある。

日本には女子高校生を売りにして男性と交流することで利益を上げる「JKビジネス」、男性と関係を持ち金銭を受け取る「援助交際」や「パパ活」など、子どもや女性を搾取するシステムが多数存在します。また、一部で悪質な条件が問題視される外国人技能実習制度が、人身取引だと国際的批判を浴びています。最近では、旧ジャニーズ事務所の故ジャニー喜多川氏による長年にわたる大規模な性加害の実態も明るみに出ましたが、マスコミや芸能界では周知の事実でした。これらを容認し消費する社会全体が人身取引を拡大させる土壌を作っているとも言えるでしょう。

子どもを守るのは、社会ひいては私たち大人ひとりひとりの仕事。グルーミングにだまされないためには、心の隙間に入り込まれないよう子どもの心をしっかりと満たしてあげることが大切です。子どもを毎日抱きしめて「大好きだよ」と伝えることから始めてみませんか。
子どもが人身取引や性加害の被害を受けていると思ったら

・緊急の場合:警察(911)に通報

・全国人身取引ホットライン(National Human Trafficking Hotline)
☎1-888-373-7888、テキスト:BeFree(233733)、
https://humantraffickinghotline.org

・全国行方不明・搾取児童センター(National Center for Missing & Exploited Children) ☎1-800-843-5678、www.missingkids.org/gethelpnow


参考文献

(1)50 million people worldwide in modern slavery
https://www.ilo.org/global/about-the-ilo/newsroom/news/WCMS_855019/lang–en/index.htm
(2)Child Trafficking: Myth vs. Fact
https://www.savethechildren.org/us/charity-stories/child-trafficking-myths-vs-facts
(3)ウクライナ危機が生み出す新たな人身売買の危険
https://www.japanforunhcr.org/news/2022/Ukraine-crisis-creates-trafficking-risks
(4)人身取引・売買は日本の子どもたちにも起こっている?日本や海外の法規制や対策、行われている支援や寄付先のおすすめ団体とは
https://gooddo.jp/magazine/peace-justice/human_trafficking/903/
(5)Human Trafficking: Protecting Our Youth
https://www.childwelfare.gov/pubPDFs/trafficking_ts_2020.pdf

長野 弘子
ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com