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問題行動の多い子は親が原因なのか?〜子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

問題行動の多い子は親が原因なのか?

子育てに悩みはつきものですが、特に癇癪(かんしゃく)を起こして暴言を吐いたり手が出たりする問題行動には手を焼きますね。直そうとすればするほど逆に子どもの抵抗を招き、「私の子育てが間違っていたのかしら」と自分を責め、落ち込んでしまう日々が続くことも。

しかしながら、問題行動の多い子は、親に原因があるというのは誤解です。もともとその子が持っている気質、日々のストレスや困難の度合いとその受け取り方、サポートやリソースの有無、友人関係、SNSやニュース情報など社会的、文化的な影響を含め、さまざまな要因が複雑に絡み合って子どもの人格が形成されます。親の影響だけではありません。

ただ、子育てスタイルの違いにより、子どもの自己肯定感や成績、問題行動に大きな影響が出てくるとも調査で明らかになっています。以前、このコラムでも紹介しましたが、子育てには命令して子どもを従わせる「厳格型」、子どもの要求に簡単に従ってしまう「迎合型」、子どもに関心を向けず放ったらかしにする「育児放棄型」、そして子どもの気持ちをしっかり認めつつも社会的なルールを伝え、子どもの自発性を促す「尊重型」の4つのタイプがあります。効果的な「尊重型」の子育てにより、子どもの自己肯定感および社会的協調性を高めることがわかっています。

注意したいのが、親の子育てスタイルは、子どもの性格によっても大きく影響を受けるということ。気難しく頑固な性格の子どもの親は、言うことを聞かせようとして「厳格型」になる傾向にあります。そして、正そうとすればするほど逆に問題行動が増え、親子関係も悪化するという悪循環に陥ります。

それでは、具体的にどうすれば良いのでしょうか。まずは、問題行動を正そうと怒鳴ったり命令したりするのは逆効果だと認識することです。特に、ハイリー・センシティブ・チャイルド(HSC)と呼ばれる人一倍繊細な子や、意志の強い子、発達障害を持つ子などは、親のネガティブな言動に極めて敏感に反応し、より激しく反抗するか無力感で心を固く閉ざします。こうしたタイプの子どもは、「尊重型」の子育てを維持するのが難しいのですが、実はその恩恵をいちばん強く受けるのも彼らなのです。

「尊重型」の子育てのコツとしては、子どもの問題行動そのものではなく、その「動機」に焦点を当てること。人は何かをするとき、大抵は「嫌なことから逃れるため」、「望むものを手に入れるため」、「他者の注意を引くため」、そして「退屈しのぎのため」という4つの動機から行動をしています。

「授業中に騒ぐ」という行動ひとつとっても、その動機には、授業が難し過ぎる、逆に簡単過ぎる、注目されたいなど、さまざまな動機があるでしょう。子どもを変えようという気持ちをまずはちょっと横に置いて、本人に話を聞いてみましょう。

動機や目的がわかったら、それらを異なる方法で満たすことを考えます。問題行動により一時的に欲求が満たされても、本当の意味で満足することはできないと、子どももわかっています。たとえば、「授業内容がわからない」という理由で騒いで、一時的に授業から「逃れる」ことができたとしても、翌日また同じことの繰り返しになります。その代わりに、宿題を一緒に見てあげる、学習障害や発達障害の可能性を探る、認知のゆがみを正す、感情コントロール・スキルを学ぶなど、異なる方法で「授業についていきたい」という欲求を満たすことを子どもに教えてあげましょう。

また、「注目されたい」という動機の場合、先生がその子を怒るという行為は「罰」ではなく「報酬」になることも。「注目されたい」気持ちの奥には、「寂しい」という気持ちが隠れているかもしれません。親が子どもの話を熱心に聞くなどして、「一緒にいて欲しい。大事にされたい」という欲求を満たしてあげましょう。

こうして子どもの行動の奥底に隠れた動機や欲求を考えてみると、問題行動は子どもから親への「私を見て」というメッセージかもしれませんね。子どもを責めるのではなく、その動機に焦点を当てて根気強く子どもと接していけば、問題行動は次第に減っていくでしょう。親も同じように自分を責めるのではなく、欲求を大事にしながら子育てをしていきたいですね。


*同記事は、ノースウェスト大学院で臨床心理学を専攻し、シアトル地域の大手セラピーエージェンシーで5年間働いたのちに独立し、ライフフル・カウンセリングで米ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)としてセラピーを行う長野弘子さんが、学術データや経験をもとに執筆しているものです。詳しくは、ライフフル・カウンセリングなど専門家へご相談ください。

(参考資料)

メタ分析:子どもの気質による子育ての影響の違い

https://psycnet.apa.org/record/2016-39046-001



問題行動が長期化する前に止める方法

https://www.psychologytoday.com/us/blog/the-older-dad/201303/stopping-problem-behaviors-they-take-hold

長野 弘子
ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com