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怖いのに笑えてしまう
NOPE
(邦題「ノープ」)
2017年の脚本/監督作品「ゲット・アウト」で、アカデミー脚本賞を受賞したジョーダン・ピールが、脚本/監督を担当した最新作。ジャンルはホラーだが、血まみれグロテスクと言うより、状況の変化と共に怖さがヒタヒタと盛り上がっていく、彼が得意とする作り。スピルバーグ監督の名作「未知との遭遇」と似てはいるが、この「未知」は結構怖くて、上出来の娯楽映画となっている。
郊外にある馬牧場で奇怪な事件が起きた。突然、異物が空から降り落ち、それが命中した牧場主は死亡。その場にいた息子のOJ・ヘイウッド(ダニエル・カルーヤ)は、空に飛行物体を目撃する。そのことを牧場嫌いの妹、エメラルド/エム(キキ・パーマー)に伝えると、貧乏牧場に降って湧いた金もうけのチャンスとばかりに、カメラを設置して映像を撮ろうと提案。電器店の店員でテックに強いエンジェル(ブランドン・ペレア)の協力を得てカメラを設置するも、トラブル続き。だが、3人は動かない雲に隠れた存在を確信していく。
そんな頃、牧場近くの小さなテーマパークで、オーナーの元子役“ジュープ”(スティーヴン・ユァン)が催していたアトラクションでも大事件が起きた。徐々にその全貌を現す未知の飛行物体はヘイウッド牧場の上空を動き回り、OJとエム、そしてすっかり仲間となったエンジェルは映像も取れないまま、翻弄される。果たしてこの物体は何か? どのような形態なのか? それは見てのお楽しみとしよう。
謎が少しずつ明かされいく過程で見えてくる飛行体の全体像とその変化が卓抜。先がどうなるのか見当もつかない展開で、怖いのにひねったアイデアで笑わせ、最後まで楽しませてくれる。コメディアンでもあるピール持ち前のユーモアが脚本に反映され、寡黙で熟慮する兄OJと、大声でまくし立てる妹エムとのやり取りが絶妙で、本作の魅力になっていた。とりわけエムの破天荒な活躍ぶりは、新しい女性像の誕生として特筆すべきだろう。
作品の冒頭、動画の始まりとなるエドワード・マイブリッジによる1878年の疾走中の馬の連続写真についてエムが話し出し、この馬に乗っていたのが曽曽祖父だったと誇らしげに宣言する。たぶん、誰もあの馬に乗っていたのが黒人男性だと気付かなかったのではないだろうか。SFホラーの一大スペクタクル映画に、さりげなく黒人の歴史を入れ込むのもピール監督ならでは。初めから飛ばしてくれるなあ、とワクワクしてしまった。
NOPE
邦題「ノープ」
上映時間:2時間15分
写真クレジット:Universal Pictures
シアトルでは標準上映のほか、シネコンで4DX、IMAXでも上映中。