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バージニア・メイソン・メディカル・センター感染症科指導医 千原晋吾さんに聞く、新型コロナQ&A

コロナ禍は長期化し、変異ウイルスも確認されているものの、ようやく新しいフェーズに入った感のあるシアトル。現状と今後の見通し、アドバイスを専門家に聞きます。

取材・文:シュレーゲル京希伊子

千原晋吾■熊本生まれ。7歳から2年半、父親の仕事の関係でプエルトリコに住み、その後は高校卒業までニュージャージー州で暮らす。山梨医科大学を卒業し、日本で初期研修を終えた後、再びアメリカに渡る。コネチカット大学、シカゴのラッシュ大学、ユタ大学、獨協医科大学など日米の大学病院勤務を経て、2014年から現職。ベルビュー在住。

Q. 2022年のキング郡での感染状況は?

3月の症例数は減ったものの、4月に入り上昇傾向に。4月18日現在、1日の症例数は平均550件ですが、1月のピーク時には7,000件を超えていました。また、新規入院数は1日60例から5例に、死亡数も1日14例から1例にまで減少しています。年齢別に見てみると、陽性患者は20〜30代が中心ながら、入院に至る患者は高齢者が多いという傾向はこれまでと変わりません。

Q. 置き換わりが進むオミクロン株の新種「BA.2」とは?

今年に入って新型コロナの変異ウイルス感染はデルタ株からオミクロン株に完全に置き換わっており、そのオミクロン株にも新しい系統「BA.2」が出てきています。ワシントン州では、2月下旬から3月中旬にかけて、このBA.2の占める割合が7%、20%、28.6%と少しずつ増え、4月13日時点では61.9%に。アメリカ全体では3月半ばの時点で34.9%(東海岸に至っては半分以上)を占めていましたが、それが85.9%にまで広がっています。

BA.2は、従来型のBA.1よりも感染力が高く、動物実験では重症化する頻度が高いという結果も出ました。しかし、実際にワクチン接種率の高い国(南ア、イギリス、デンマークなど)を見てみると、重症化率に関して疫学データ上の有意差はありません。最近では、BA.1、BA.2両方の特徴を持つ変異ウイルス「XE」も出現しており、こちらも注視していく必要があります。

Q. ワクチンの2回目の追加接種(ブースター)は必要ですか?

2回目の追加接種は、50歳以上の高齢者と免疫疾患のある人にすでに認められています。先行するイスラエルでは、2回目の追加接種により高齢者の罹患率や重症化率が減少し、同じように接種した医療従事者も高い抗体を示しています。

子どもの追加接種に関しては12歳以上について推奨されていますので、5歳から11歳までに対しても同じように推奨されるでしょう。CDC(米疫病対策センター)の推奨事項を受け入れるかどうかは各州の判断に委ねられます。子どもの重症化率は低いのですが、周りの大人にうつす可能性や後遺症のことを考えると、ワシントン州では子どもへの追加接種も推奨される方向です。

Q. 5歳未満の子どももワクチンが打てるようになりますか?

モデルナ製のワクチンがFDA(米食品医薬品局)に申請されたばかりです。治験では、6,700人の子どもを対象に、大人の4分の1の量を28日間隔で2回投与し、有効率は40%程度。そもそも重症例や死亡例が見られなかったため、重症化の予防に関する評価はできませんでした。副反応として、約15%の子どもに微熱が出ました。FDAの認可が下りてから数週間の準備期間が必要になるので、実際に接種が始まるのは今年5月頃だと予想されます。

Q. 新型コロナの後遺症については、どんなことがわかっていますか?

感染後、4週間以上症状が続く場合は後遺症とみなされます。実は、罹患者の半分以上に何らかの後遺症が見られます。主に倦怠感や物忘れ、うつ症状などが報告されていますが、原因はウイルス因子にあるのか、個人の免疫因子なのか、明確にはわかっていません。

同じような後遺症が見られる疾患に、若者がかかりやすい「伝染性単核球症」があります。後遺症が何カ月も続くケースも確認されていますが、薬はなく、自然に回復するのを待つしかありません。新型コロナの場合、症状が重症だったから後遺症になるとは限らず、軽症で済んでも後遺症が長引く場合もあるため、そもそも感染しないことが大切です。

Q. すでにコロナに感染した人でもワクチン接種すべき?

自然免疫にしろ、ワクチン免疫にしろ、一般的な免疫の持続期間である約90日を過ぎると免疫力が下がり、再感染の確率が高まります。コロナ罹患者を対象にした研究によれば、ワクチンを接種した人は未接種の人と比較して再感染の確率が半分だったことがわかっていますので、ワクチン接種でより良い免疫が期待できると言えます。

ただし、現在のワクチンは2年前の武漢型を基に開発されており、変異ウイルス次第では対応し切れないことも考えられます。今もワクチンのさらなる開発が進んでいます。

Q. 検査キットは役に立ちますか?

ハイリスクの人と接する際は特に、事前に検査をして陰性を確認することが求められます。市販の検査キットは、症状がある場合にはかなり正確に結果が出ます。気になる人は、1度目の検査で陰性であっても、翌日にもう1度検査するなどして有効性を高めると良いでしょう。

Q. 今後も感染対策は継続したほうが良いですか?

社会全体としては、ワクチン接種済みで基礎疾患のない方はマスクを着用しなくても問題ないでしょう。ただし、高齢者や免疫疾患のある人などリスクの高い人はマスク着用とソーシャル・ディスタンスが引き続き必要です。また、ワクチン接種率の低い途上国などでウイルスが増殖すると、そこからまた変異ウイルスが世界中に広まる可能性はあります。新型コロナとの戦いはまだ終わっていません。現時点では、検査体制の充実、治療薬の開発、PPE(マスクや手袋などの個人用防護具)の整備など、第7波が本格化する前に、万全な体制にしておくことが大事です。

シュレーゲル 京 希伊子
フリーランス翻訳家・通訳。外務省派遣員として、92年から95年まで在シアトル日本国総領事館に勤務。日本へ帰国後は、政党本部や米国大使館で外交政策の調査やスピーチ原稿の執筆を担当。キヤノン元社長の個人秘書、国連大学のプログラム・アシスタントなどを経て、フリーに転身。2014年からシアトルへ戻り、一人娘を育てながら、 ITや文芸、エンタメ系を始めとする幅広い分野の翻訳を手がける。主な共訳書は、金持ち父さんのアドバイザーシリーズ『資産はタックスフリーで作る』など。ワシントン州のほか、マサチューセッツ、ジョージア、ニューヨーク、インディアナ、フロリダにも居住経験があり、米国社会に精通。趣味はテニス、スキー、映画鑑賞、読書、料理。