取材・文:シュレーゲル 京 希伊子
6月10日、米国保健福祉省によるアジア系アメリカ人、ハワイ原住民、太平洋諸島系(以下AANHPI)の報道関係者を対象としたプレス報告会がオンライン開催されました。シアトルのバージニア・メイソン病院感染症内科で勤務する千原晋吾医師が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種について、見解や地域の実情を伝えました。
米国保健福祉省からビベック・マーシー医務総監と医務総監室のアデライダ・ロサリオ医師が参加し、行われた特別講演。ワクチンの安全性と有効性についてデータに基づく解説があった。また、AANHPIコミュニティー特有の問題としては、情報格差が取り上げられた。言葉の壁や文化的背景からワクチン情報を得られないケースが見られ、ワクチン接種率の低さなど医療格差につながっている点などが指摘された。言語別のセッションでは、日本語プレス向けにワクチン接種の重要性について、千原医師による日本語での説明が行われた。
千原医師は、パンデミックが始まった2020年2月頃からCOVID-19症例の診察に当たっている。当初は、未知の病原体に対する治療法も感染対策も確立されていない中で、マスクやゴーグルなどのPPE(個人防護具)が圧倒的に不足しており、医療従事者の感染を防ぐことが最大の課題だったと振り返る。「昨年末になってようやくワクチンが登場し、疲弊する医療現場に希望がもたらされた」と、医療従事者にとってワクチンが感染対策の強力な手段になったことを強調した。
ワクチンの安全性および接種の意義について、千原医師はこう述べている。「ワクチンの安全性と有効性は繰り返し証明されています。ワクチンを打つことで自分を守るだけでなく、家族や職場など周りの人を守ることにもなります。重症化や死亡のリスクを減らすだけでなく、もし罹患したとしても軽症で済み、さらに周囲の人にうつす確率も、ワクチンを打っていない人と比較して格段に下がります」。懸念される副反応については「長期的な影響はゼロに近い」とし、「基礎疾患がある場合も、COVID-19にかかれば重症化率が高くなるので、利益と不利益を考えるとワクチンを接種しないよりは接種するほうを勧めます」と続けた。
また、感染した場合に起こり得る後遺症についても、「実はCOVID-19にかかった場合、倦怠感や集中力の低下などの不快な症状が長期にわたって続くことがあります。そういう意味で、若い方など軽症で済むこともあるとはいえ、そもそもCOVID-19にかからないことが大切。ワクチンを打つことでそのような長期的な症状が発生したケースは報告されていません」と、ワクチン接種の利点について述べた。変異株への有効性だが、現在はアメリカ国内でも中国起源ウイルスが変異株にほぼ置き換わっていることを指摘しつつ、「ワクチンはこれらの変異株にも有効。キング郡内の感染者データを見ても、現時点では陽性になっている人のほとんどがワクチン未接種の人です」と説明した。
千原医師は、「より多くの人がワクチンを打ち、社会レベルで免疫力を高めることにより、パンデミック前の日常により早く近づけます。ワクチン接種は個人レベルだけでなく、社会レベルの利益が不利益を大きく上回るため、極めて重要。迷っている人は、信頼できるかかりつけ医に相談し、ワクチン接種をぜひ検討して欲しい」と締めくくった。