創立50周年を迎えたパシフィック・ノースウエスト・バレエ(以下PNB)でアニバーサリー・シーズンのトップを切ったのは、9月23日から10月2日までマリオン・オリバー・マコー・ホールで上演された豪華3作品。お祝いムード漂う会場で、美しい舞台に酔いしれました。
取材・文:本田絢乃
新たに3名のプリンシパル・ダンサー誕生というハッピーなニュースで幕開けした本公演は、チャイコフスキーの楽曲にジョージ・バランシン氏が振り付けをした「アレグロ・ブリランテ」からスタート。2日目のマチネ回では、プリンシパルに昇格したジョナサン・バチスタさんと、アンジェリカ・ジェネロ―サさんペア、そして4組のコールドバレエ(群舞)が約18分間踊った。群舞の中には櫻木 空さんや、高橋由記さんの姿も。スピードのある正確な演技で、華麗なフォーメーションを次々と展開していた。
そのあと、アレクセイ・ラトマンスキー氏の振り付けによる世界初演の「ワータイム・エレジー」が続く。ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、ウクライナ出身の3名のアーティストと共に作り上げられた作品だ。プログラムには「ウクライナの人々へ捧げる」と記されており、胸が熱くなる。水が流れるようにしっとりと踊る冒頭から、ちょっとしたユーモアあふれるウクライナ民族舞踊の場面まで、観客の心を引き付けて離さない。
最後の作品は、前芸術監督のケント・ストウェル氏が振り付ける「カルミナ・ブラーナ」。初演以来、これまでに80回以上も上演されたPNBの代表作でもある。オーケストラの演奏に合わせてロープをまとった50人の合唱団が歌う「おお運命の女神よ」で、のっけから観る者を中世の世界へと誘う。デザイナーのミン・チョー・リー氏による舞台装置、巨大な金の車輪も圧巻。その下で、ダンサーたちは時に官能的に、時にダイナミックに乱舞し、舞台脇で独唱する3名のソリストが物語に彩りを添える。まさにオペラとバレエを同時に観ているようで贅沢な感覚を味わえる、特異な作品だった。