痛快なパロディ舞台
「タイタニッシュ」
取材・文:加藤良子
グリーンレイク・バスハウス内にあるシアトル・パブリック・シアターで、夏になると上演されてきた舞台『タイタニッシュ』。112年前の物語を描いた映画『タイタニック』のパロディで、ポスターが貼り出されるたびに気になっていましたが、上演3年目にして初めて観劇することができました!
映画『タイタニック』を題材にした舞台「タイタニッシュ」(意訳:タイタニックっぽいもの)は、その壮大な物語を下ネタで覆い尽くした痛快なコメディ作品。あらすじは映画と同様、沈みゆくタイタニック号の中で繰り広げられるジャックとローズ、その婚約者カルの三角関係を描く。ただし、登場人物の描写は大幅変更! 年老いたローズが、84年前にタイタニック号で起きた出来事を驚くほど下品な口調で回想し始める場面から、観客はこの舞台のギャグ路線を知らしめられる。
舞台の最大の魅力は、記憶に残る個性的な登場人物たち。憎みきれないおとぼけキャラとして描かれる婚約者のカルや、極端にアクセントを強調した脇役など、誰もが強めのクセをもつ。カルの執事のラブジョイは酔っ払っているため常に赤ら顔で、登場するたびに片手に持つグラスがちょっとずつ巨大化。船が沈む場面ではついに頭と同じくらいの大きさになり、この細かな演出に気づいた時は思わず笑ってしまった。
舞台の終盤には映画の撮影NG集のように、本筋とは別バージョンのエンディングを再現。冷たい海に浮かぶ板にしがみつくジャックに、ローズが「その気になれば、この板に2人で乗れるんじゃない?」と呼びかける。それを聞いたジャックは軽快に板に飛び乗り、2人でのびのびとヨガを始める。そして、エンヤの『セイル・アウェイ』の曲に乗せて海の彼方へ消えていくという、予想外なハッピーエンド版の演出もあり、観客はこの斜め上を行く展開に衝撃と笑いの渦に包まれた。
悲劇的な物語を、独自の解釈と際どいギャグで塗り替えた「タイタニッシュ」は、高い完成度で観客を魅了していた。登場人物の滑稽な言動や予想外の展開、そしてギリギリを攻めたブラックユーモアの絶妙なブレンドが、見る人を飽きさせない仕上がりである。
来年の夏も、ぜひ上映してほしい。ただし、下ネタが多く含まれるため、苦手な方は要注意!?