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終戦記念特別レポート2 伝承-Densho-

取材・文 長岡里沙

日系アメリカ人の歴史を後世に伝えることを目的に、日系3世のトム・イケダさんがシアトルで発足した非営利団体Densho(伝承)は、今年創立20周年を迎える。「日系1世、2世は、終わったことだから仕方ないと沈黙して、差別を受け苦しんだ日々を話したがらない。だから私たちが記録して伝えるのです」とDenshoの職員、マガシス・直子さんは語る。

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Denshoのオンラインを通しての主な活動は、日系人の歴史情報の掲示(日本語HPあり)、動画インタビュー、写真・書簡の閲覧、ダウンロードができるウェブサイト(Densho Digital Reposiory)と日系アメリカ人のオンライン伝承専門事典(Densho Encyclopedia)の運営、そして、アメリカの中学・高校の社会科の教材づくりだ。
ネット上では様々な情報が得られるが、それが正確だとは限らない。「日系人の正しい歴史を知ることができるのはDenshoのウェブサイトだけです」とマガシスさんは言い、同サイトでは、信頼できる情報が詳細に、しかも分かりやすく掲載されていることを多くの人に知ってもらいたいと願っている。
「悲しい歴史として伝えることがDenshoの目的ではありません。差別は過去の出来事ではなく現在にも存在しています。それを認識し、どう立ち向かうのかを考えてほしいのです」
人種・性・宗教などによる差別は過去の話ではなく今でも起こり得る現実を、同団体では講演会などを通して次世代に伝えている。
例えば今、世界中でイスラム教徒が危険視されているが、第二次世界大戦中のアメリカにおける日本人がまさに同じ立場に置かれていたのだ。「テロを起こす過激派を許すことはできません。でも全てのイスラム教信仰者がテロリストではないのです。メディアが報道によって扇動することで世論は動いてしまいます。だからこそ、私たちは与えられた情報を鵜呑みにするのではなく、分析できる目を養うことが大切なのです」
マガシスさんの話を聞いて初めて、私自身にイスラム教への偏見があったことに気付かされ、戦時中に日本人を差別したアメリカ人の感覚が分かったような気がした。
差別を受けた歴史を持つのは日系人だけではない。Denshoはホロコーストの歴史を伝える団体や、ヒスパニック系、ラテン系アメリカ人などのコミュニティと協力し、現代の差別問題を提起する取り組みを始めた。互いに情報交換し、協力することで次世代への伝え方を効率的なものにしている。
今、人々に必要なことは、自分の中にある偏見への気付きなのかもしれない。その気付きを促すためにDenshoはこれからも歴史を伝え続ける。
nikkeijin.densho.org


マガシス直子さんs-min マガシス・直子さん

神戸生まれ、京都育ち。仕事でシアトルに来て30年。現在はDenshoのオフィスマネージャー、イベント・翻訳担当。nikkeijin.densho.org