実在のジャズ・ピアニスト、ジョー・オルバニーのある時期の姿を、当時12~14歳だった娘の視点で描く自伝的映画。才能豊かな父の音楽が大好きだった娘が、ヘロイン中毒から抜け出せずに苦しむ父の姿を見つめ成長していく、やや聞きなれた感のある物語ではある。
1974年、12歳のエイミー(エル・ファニング)は、怪しげな人々が住むハリウッドの安ホテルで父ジョー(ジョン・ホークス、好演)と2人暮らし。酒浸りの母は出奔したが、父が大好きなエイミーは寂しくなかった。ただ、父が隠れて麻薬を打っていることが気がかり。
遂にジョーは捕まり医療刑務所に送られ、エイミーは息子の才能を信じる気丈な祖母(グレン・クロース)と暮らし始める。そして2年後、14才になったエイミーの元に父がパリから帰ってきた……。
原作はオルバニーの娘、エイミー・ジョー・オルバニーの手記『Low Down: Junk, Jazz and Other Fairy Tales From Childhood』。長い題名だが、まさにこの題名通りの映画で、脚本も彼女がトッパー・リリエンと共に書いている。
エイミーにとって、この父はどんな風に見えたのか? 親への怒りを自覚するには幼すぎ、また愛情を持ちすぎていた多感な少女の感情体験が丁寧に描かれていく。台詞の少ないファニングが繊細な表情を見せてはまり役だが、困った父親を見つめる娘役は『SOMEWHERE』『ジンジャーの朝…』でも同じ。これ以上やらない方が良いだろう。
薬物/アルコール依存症の音楽家の映画は『バード』や『クレイジー・ハート』『レイ』など数多く作られていて、どの音楽家たちも泥沼で喘ぎ、同じ自己嫌悪の苦しみを体験している。彼らは音楽的にはとびきり個性的なのに、麻薬に苦しむ顔は皆一緒。創造性や個性、人間の尊厳すら奪っていく薬物中毒者の顔を持つ。本作に、聞きなれた感を抱くのはそのためだろう。
監督はチェット・ベイカーの記録映画を撮影したジェフ・プレイス、初監督作品だ。88年に逝ったオルバニーのライブを聴いていたジャズ・ファンで、本作では通好みと言われるオルバニーのピアノ演奏もたっぷり聞くことができる。
上映時間:1時間54分。シアトルは21日よりVarsity Theatre で上映中。
写真クレジット:Oscilloscope Laboratories