国費奨学金制度「文化庁新進芸術家海外研修制度」によって研修のため来米する新進映画撮影監督の定者如文(じょうしゃ・ゆきぶみ)さん
国による新進芸術家のサポート制度
文化庁が推進する「新進芸術家海外研修制度」は、国費による芸術家派遣制度で、美術、音楽、舞踊、演劇、映画、舞台美術などメディア芸術の各分野における新進芸術家やそれに関連する分野の専門家が海外で実践的に研修するための渡航費及び滞在費を支援し、将来の日本の文化芸術振興を担い、国際的に活躍する人材を育成することを目的に設けられている。これまで同制度によって研修を行った芸術家には著名人も多く、世界を舞台に活躍の幅を広げている。
今年研修者として選ばれたのは、映画撮影監督の定者如文さん。子どもの頃から映画が大好きだった定者さんは、紆余曲折を経て、遅まきながら31歳で映画業界へ進む。20代でアジアの国々を旅して歩いた時代に培ったカメラの腕を生かしてカメラマンとして経験を重ねる。やがてアメリカの撮影学校に行きたいという思いが芽生え始め、38歳でアメリカ行きを意識するようになった。そこで英語の勉強のためにフィリピンへ留学。スパルタ式の学校で鍛えられ、帰国後、渡米を実現させる方法について模索していた時に、アメリカの撮影学校に通う友人が同制度について教えてくれたのだ。準備のために奔走し、2015年に申請、許可されたのが今年だ。定者さんは40歳「周りから愚図だといわれ、自分でもあきれるほど愚図だと思う」。しかし、こつこつと仕事を続け、これまでにすでに多くの実績を積んできたのだ。例えば、2014年に中国チームと制作した『Midnight Tax 1st season -午夜 程 第⼀季』は、中国国家新聞出版広電総局が選ぶベストネットドラマ賞を受賞するなど、その才能は海外で認められている。
シアトル国際映画祭での活躍
撮影監督を務めた『2045 Carnival Folklore』は昨年のシアトル国際映画祭(SIFF)に選出され、「Live movie screening」と題して、監督の加藤直輝と音楽の増田圭祐によるユニット・Sierror!〽が、同映画の上映と同時にライブ演奏を行っている。原発がメルトダウンしたという想定の2045年の日本を舞台にした本作品は、SF映画としては超低予算であり、同じく選出された他の邦画3作品とは予算に100倍ほどの開きがあったという。
SIFFへの参加は映画大国アメリカで認められたという点において大きな意味を持ち、今後の挑戦へのステップとなった。また、ベナロヤホールで開催される恒例のイベント「セレブレート・アジア」での映像プロジェクトや、作曲家・菅野祐悟さんらの「Tohoku Revive」イベントでも映像を制作するなど、シアトルとの縁は深い。
2016 年はロンドンのICA(Institute of Contemporary Art London)に招待され、同作品のライブ上映を予定している。本作品はウェブサイト( 詳細:2045carnivalfolklore.com/ja/)で予告映像の視聴が可能。
夢が叶って来年からニューヨーク、ロサンゼルス、シアトルと、全米各地で研修を開始する。試行錯誤しながらここまできた定者さんは、「これからも挑戦する心を忘れずにいたい」と決意を語っている。
取材協力:株式会社ENパシフィックサービス
定者如文■1975年生まれ。兵庫県神戸市出身。大阪芸術大学映像学科、東京藝術大学映像研究科修了。在学中、三池崇史作品や北野武作品を経験。卒業後はムービーカメラマンとして映画、ドラマを中心に数多くの作品を手がける。2017年3月には、10年間のキャリアの集大成として、2016年度の文化庁新進芸術家海外研修制度を利用して2017年に渡米の予定。
問合せ: 株式会社ENパシフィックサービス info@enpacificservice.com
代表作
- 『グッドカミング~トオルとネコ、たまに猫~』
- 2012 撮影監督
(Good Coming – Toru to Neko to tamani Neko)
月川翔監督作品。ミュージックビデオの一環として制作。ショートショートフィルムフェスティバル&アジアでミュージックShort部門シネマチックアワード受賞。 - 『真夜中のタクシー』
- 2014 撮影監督(Midnight Taxi 1st season -午夜 程 第⼀季)
萩生田宏治監督作品。プロデューサーは『深夜食堂』の遠藤日登思。オール上海ロケ、オール中国人キャスト。
中国のネット及び地上波・旅遊衛視にて中国全土で放送された。2014年ネット作品アワードでネットドラマ部門グランプリ受賞。 - 『2045 Carnival Folklore』
- 2013-14 撮影監督
加藤直輝監督作品。ポスト東日本大震災の問題点をノイズミュージックの雑音の海へと浸み込ませたアート作
品。2015年シアトル国際映画祭に参加。2016年イタリアの音楽映画専門映画祭Seeyousoundにノミネート。