マーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)による第18作だが、飽きられるどころか歴代5位の興行収益を上げた超ヒット作品。確かにこれまでのMCUとは異なる鮮烈な時代性と映画的な魅力に満ちていた。
舞台はアフリカの架空の国、ワカンダ。表向きは開発途上国だが、実は太古に宇宙からもたらされた鉱石を利用した高度な先進技術を有する神秘の国だ。その国で父の死後、国王になったティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)は同時に、超能力を持つ「ブラックパンサー」になる儀式も受ける。ところが、鉱石の持つパワーに目を付けたふたりの男がワカンダに忍び寄る。そのひとりは元国王の過去に深いかかわりのある男、キルモンガー(マイケル・B・ジョーダン)で、王座を狙っていた。
国王でありながらスーパーパワーを持つ黒豹の化身、同時に父の過去に苦悩する主人公の陰影ある設定に加え、彼を支えるスパイ(ルピタ・ニョンゴ)、親衛隊(ダナイ・グリラほか)、天才科学者(レティーシャ・ライト)が、それぞれに賢く強く、アフリカ的に美しい女性たちというのも素晴らしい。豹のように敏捷に動くブラックパンサーの流麗さ、女性陣の格闘シーンも説得力十分で、彼彼女らがアフリカ的であればあるほど崇高、というまさに時代が呼び込んだ待望のスーパーヒーロー像と言える。
共同脚本と監督は、ライアン・クーグラー。初の長編映画「フルートベール駅で」(2013)で成功を収め、「クリードチャンプを継ぐ男」(2015)で「ロッキー」シリーズに新たな命を吹き込んだ気鋭の俊才だ。長編3作目でこの大ヒットは快挙中の快挙と言えるだろう。
映画の冒頭でカリフォルニア州オークランドが登場するが、この地はクーグラーが生まれた土地であると共に、1960年代後半、アフリカ系の民族主義運動・解放闘争を始めた急進的な政治組織、ブラックパンサー党が生まれた土地でもある。ブラックパンサーの名前といい、偶然の一致と言うにはあまりにも無理がある。
武器を持たないアフリカ系の少年たちが警官によって射殺される事件が次々と起こり、トランプ政権となって憤懣やるかたない声も上がる中で、渦巻く時代の熱気を一気に吸い込み、白人中心だったMCUの世界に新たな一石を投じた本作。なぜこれほど大ヒットしたのか?理由は簡単、時代は差別的で古いものを壊す、偽りのないパワーを渇望しているからだ。
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