シアトル建築協会の建物ツアー、「ダイアモンド&ゴールド:ノースウェストのアールデコ高層建築(Diamonds & Gold: The Art Deco Skyscraper Northwest Style)」に参加した。シアトルのダウンタウンに意外に多いアールデコ様式のビルを6つほど巡る2時間程度のウォーキングツアー。何回かに分けて、このツアーで訪れたビルをご紹介したい。
アールデコ様式は1925年のパリ装飾美術博覧会でいちやく時のスタイルとなった。フランス生まれだが本格的に花開いたのはアメリカで、エンパイアステートビルはじめ、建築の代表作はほとんどアメリカにある。スピードを感じさせる力強いシンプルなラインの建築は、ヨーロッパの老帝国が崩壊していくのを横目に自信と意欲にあふれる青年のような国だった当時のアメリカのキャラにぴったりのスタイルだったと言える。
この日のボランティアのツアーガイド、もと弁護士のナンシーさんが教えてくれたアールデコ様式建築の特長は、1)垂直のラインの強調、2)セットバック(上層が階段状に狭くなっている形)、3)装飾性の3つ。アールデコの装飾には実にいろいろなモチーフが取り込まれている。エジプト風もその一つ。1922年にツタンカーメンの墓が発見されたあと世界中にエジプトブームが起こり、アールデコ様式にも大きな影響をおよぼしたのだそうだ。
この日のツアーで最初に訪れたシアトル・タワー(1929年完成)には、まさにそのエジプト風趣味がこってり。もとは生命保険会社の本社屋として建てられ、ノーザン・ライフ・タワーという名前だったこのビル、1階ロビーはまるでファラオの墓の内部のように絢爛豪華。床は何種類もの大理石を使った幾何学模様でおおわれ、暗い色調の大理石の壁と緻密な装飾の銅板で飾られた天井が墳墓さながらの雰囲気を醸し出している。
外壁の煉瓦は27色。上に行くほど白みがかった薄い色が使われ、シアトルから見える雪山を模しているという。このビルは27階建てで、当時もっとも高かったスミス・タワーにはおよばないが、高台に建っているので完成当時はシアトルのスカイラインで一番目を惹く存在だった。しかも夜は300ものライトでカラフルにライトアップされ、オーロラのようだったので「ノーザンライツ・ビル」と呼ばれていたという。シアトル港に入ってくる船からも、このビルはダウンタウンの真ん中に輝いて見えた。狂騒の20年代に建てられ、その後数十年にわたってシアトルの顔だった美しいビルだ。
シアトル・タワー
1218 Third Avenue, Seattle
[たてもの物語]