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『Creed』 (邦題『クリード チャンプを継ぐ男』)

蘇ったハングリー・スピリット
『Creed』
(邦題『クリード チャンプを継ぐ男』)

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©Metro Goldwyn Mayer PicturesWarner Bros Pictures

 

ボクシング映画は、主人公のボクサーが負け犬である方が断然に面白い。厳しい訓練の末にリングに上り、勝利することで逆転できる負の歴史。負荷が大きければ大きいほど、勝利の意味も大きい。さもなければボクシングはただの殴り合い、誰も主人公の戦いぶりに手に汗を握ったりはしない。

76年の映画『ロッキー』はその典型的な作品で、3日間で脚本を書き、主演に固執した無名の俳優シルヴェスター・スタローンと作品の大ヒットが、主人公ロッキーのありえない勝利と重なって「伝説的」な映画作品になった。 あれから40年弱、終わる終わると宣言しながらなかなか終わらないシリーズのスピンオフが本作。だが実はこれが、オリジナル第1作に迫る最上の出来栄えだった。

喧嘩ばかりしていた孤児アドニスは、彼が生まれる前に死んだ実父で偉大なプロボクサー、アポロ・クリードの妻メアリー・アン・クリード(フィリシア・ラシャド)に育てられた。成長したアドニス(マイケル・B・ジョーダン) は安定した職を辞め、メアリー・アンにボクサーになると宣言して家を出る。 彼が目指したのはフィラデルフィア、父の親友ロッキー・バルボア(スタローン) の元だった。ロッキーはボクシングを引退、亡くなった妻の名をつけたレストランを経営していた。そんな彼にアドニスはトレーナーになってくれと頼むのだった。

シリーズのファンなら第1作でロッキーを鍛えたトレーナー、ミックとの関係を想起するだろう。古ぼけたジムの看板も健在、有名なロッキースッテプでの走り込みから、ペットの亀まで登場し、物語はデジャブのように展開していく。だが二度塗り感は全然なかった。

引退したボクサーが彼を救うために死んだ朋友の息子をボクサーとして育てる。ロッキーの男気を見せる設定に加え、父を知らない孤独な若者が偉大なる「クリード」の姓を名乗る重圧と闘いながら成長していく物語で、『ロッキー』の持っていたハングリー・スピリットが鮮やかに蘇っている。

原案/脚本/監督は若干29歳のライアン・クーグラーで、前作で初長編『フルートベール駅で』で注目を浴びた気鋭の新星。 加州オークランド出身の彼は、実際に起きた殺人事件、同市のフルートベール駅で警官に射殺されたアフリカ系の若者の死に至るまでの姿を、あつい同胞愛をもって描いている。 『フルート…』で殺された若者を演じたジョーダンを、本作で再び起用し、俳優としての可能性を見事に引き出した。 『ロッキー』を見て育ったという監督が、原案を書きスタローンにアプローチ。 まさか、こんなバトンタッチがあるとはスタローンも予期していなかっただろう。 今や第1作のミックと同年齢となった彼の枯れた演技が素晴らしく、40年も同じ人物を演じ続けることで見せてくれた「あるボクサーの生涯」に喝采を送りたい。

上映時間:2時間13分。シアトルはシネコン等で上映中。

[新作ムービー]

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。