紫式部 vs. 清少納言 永遠のライバルを舞台化!
NHK大河ドラマ『光る君へ』でも話題になっている紫式部と清少納言の関係をコミカルに描いた舞台劇『アンライバルド』が5月10日から6月2日までシアトル・パブリック・シアターで上演されました。アジア系女性をテーマにした作品を制作するシス・プロダクションとシアトル・パブリック・シアターによって共同製作されたこの作品は、日系アメリカ人の劇作家ロージー・ナラサキさんが描いた魅惑的な脚本を、東京出身の演出家交野 みみさんが見事に演出しました。
取材・文:加藤良子
主な登場人物は紫式部と清少納言、その2人と三角関係に陥る藤原道長と、皇后の藤原定子 。実際に紫式部と清少納言に面識があった可能性は低いとされているが、本作品は4人に交流があった設定で描かれている。交野さんは脚本について「1000年経っても変わらない女性の社会的立場の難しさを、文化を超え現代の言葉で説明したスマートな作品だと感じた」と語る。
能の舞台のように客席にせり出した木枠のセットには藤や朝顔、紫陽花の花が飾られ、几帳を思わせる間仕切りにもこだわりがみられた。交野さんは「日本育ちの日本人にも通用するものを作りたい」と平安時代を感じさせる演出と、現代風のセリフとのバランスを図ったという。俳優が動きやすいよう軽い素材で十二単のシルエットができるようこだわり、かつ、中国の伝統衣装と混同したものにならないよう話し合いを重ねた。
丁寧な再現を試みつつも、登場人物がくつろぐ場面でははだけた羽織からヨガパンツが見えたり、フェイスパックやマティーニグラスを使うシーンがあったりと、紫式部や清少納言が現代を生きる等身大の女性として描かれているところがユニークだった。
物語は、紫式部が女官として定子に採用される場面から始まる。すでに定子に仕えていた清少納言は新人の紫式部に嫉妬し、自分の部屋に呼びつける。笑顔で迎え入れつつ、暗に「調子に乗るなよ」と迫る清少納言とその気迫に恐れおののく紫式部とのコミカルなやり取りが笑いを誘った。最初は難しい関係だった2人も、不器用ながら少しずつお互いを信頼しあっていく様子は微笑ましかった。道長が紫式部の気を引こうと『源氏物語』を読む場面では、作品の設定に疑問を投げかけるセリフも。「主人公のヒカルは、実母に似た叔母に恋をして、その叔母にそっくりの姪にも恋をしたの? それってどんな状況?」と、現代だったら問題だらけの関係をツッコむシーンに場内は大爆笑だった。道長を巡り思いもよらないすれ違いをする2人が誤解を解こうと必死になる姿はいじらしくて心を打たれた。桜吹雪の中で迎えたエンディングは美しく、ドラマチックな展開に胸が熱くなった。