5月18日、映画『誰も知らない(Nobody Knows)』や『そして父になる(Like Father, Like Son)』で世界的に知られる是枝裕和(これえだひろかず)監督が、ワシントン大学のケーン・ホールでワークショップを行った。これは三菱商事レクチャーシリーズとして、同大学のジャパン・スタディー・プログラムが主催したもの。
是枝監督がシアトルを訪れるのは今回が初めて。最新作『海よりもまだ深く(After the Storm)』のシアトル国際映画祭(SIFF)参加にあわせての訪問だ。国際映画祭でいろいろな土地をまわることに対して「戦略的に考えているわけではありません」と笑いながらも、「新しい街や映画祭に招待された時は、なるべく訪問の話を受けるようにしています」と語ってくれた。
映画制作のスタイルについて「大衆性の中に作家性を埋没させることの魅力に気づいて以降、さまざまな手法を試すように心がけています」と語る監督。その意識は、アメリカのメジャー映画である『スタンド・バイ・ミー』や『クレイマー・クレイマー』といった作品を一つの指標としているのだそう。「2015年の作品『海街Diary(Our Little Sister)』では、直線的な物語からこぼれてしまう要素を取り上げつつ語るという手法を試みました」。映画監督として不動の地位を確立した今でも、自らの作品の中で模索を続ける姿勢が垣間見られた。
ワークショップでは、ワシントン大学で現代日本文学を教えるダヴィンダー・ボーミック(Davinder Bhowmik)准教授から、なぜ作品に風鈴や自転車のベルが何度も登場するのかという質問を受け、「音を想起させるものを映像に取り込むことを意識していますが、風鈴に関してはあまり意識せずに使っているので、より深い心理に関わっているのかもしれませんね」と答えた。その後も続く数々の鋭い質問に、「まるで心理カウンセリングを受けているようです」と苦笑いし、会場の笑いを誘った。
また学生からの、なぜカメラをあまり動かさないのかという質問に対しては、「1つのシーンを撮るにあたって、正しいカメラ位置というのは1つしか存在しないと考えているので、その構図を崩さないように芝居を捉えるにはどうしてもカメラの動きが少なくなります」と答えた。
帰国後には次回作『三度目の殺人(The Third Murder)』の仕上げに取りかかるという是枝監督。サスペンスというジャンルをいかなる手法で仕上げるのか、公開が待たれる。
取材・文:深田祐輔(寄稿)
写真提供:Andy Ahlstrom
取材協力:株式会社ENパシフィックサービス
ライター紹介:深田祐輔
京都出身。監督、プロデューサー、サウンドデザイナー。 南カリフォルニア大学で映像制作を学び、現在は短編映画「パーフェクト・ワールド」の仕上げとVR化に取り組んでいる。