晴歌雨聴 ~ニッポンの歌を探して Vol.15
日本のポピュラーカルチャー、特に1960-70年代の音楽について研究する坂元小夜さんが、日本歌謡曲の世界を案内します。
第15回 歌番組の歴史
かつて、テレビが家庭の中心だった時代がありましたね。今は、インターネットの普及をきっかけとして、映像メディアをめぐる環境は日々変化しています。
私も子どもの頃は、テレビの歌番組がとても楽しみでした。特に好きな歌手が出演するというわけでなくても、毎週金曜日の夜8時には宿題やお風呂を済ませて、いざその時間になるといそいそと居間に陣取り、夢中になって観たものです。当時の私にとって、何からも邪魔されたくない時間でした。翌週の月曜日、学校でクラスメートとその歌番組について話すのもまたうれしかったことを覚えています。
さて、その番組とは、テレビ朝日系の「ミュージックステーション」です。この番組が始まったのは、1986年。放送開始当時は、「ファミリーで楽しめる音楽番組」がモットーだったそうです。それが、視聴率の低下などにより、10代から20代までの若者向けの音楽番組へと方向転換することになりました。実は、このミュージックステーションが軌道に乗り始める頃、長らく続いていた別の歌番組が相次いで打ち切りとなりました。「夜のヒットスタジオ」(1968〜1990)と「ザ・ベストテン」(1978〜1989)です。その終焉となった1989年から1990年にかけて、一体何があったのでしょう?
インターネット全盛にはまだちょっと早い、平成の始まりの時期。調べてみたところ、どうやらCDの普及と国内の音楽ジャンルの多様化に関係がありそうです。CDラジカセが爆発的人気となり、誰でも好きな音楽を好きな時に、気軽に聴ける時代へと変化しました。そう、週1回の音楽番組のために茶の間に集まらなくても良くなったのです。それはそれで寂しい気もしますが、こうしたメディアの進化によって生活様式は変化していくものです。音楽ジャンルの多様化については、「J-POP」の誕生が決定的でした。1988年に開局したFMラジオ局、J-WAVEがその用語を使ったのが始まりと言われています。
こうした変化の中でテレビの歌番組は廃れていく、のかと思いきや、今も数え切れないほどの音楽番組があるようです。単に楽曲を紹介する番組に限らず、バラエティー寄りのもの、ひと組のアーティストに密着取材したもの、ジャンルを限定したものなど、あらゆる種類の音楽番組が存在していて驚きます。この背景にはテレビ局の細分化と音楽ジャンルの多様化、音楽を紹介するバラエティー番組の増加などがありそうです。
歌番組ひとつとっても、歴史を紐解くと、世の中の動きとつながっていることがわかります。歌は世につれ世は歌につれ、とはまさにこのことですね。