晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして
日本のポピュラーカルチャー、特に1960-70年代の音楽について研究する坂元小夜さんが、日本歌謡曲の世界を案内します。
第36回 いい湯だな
1年ぶりに日本へ一時帰国しています。私にとってアメリカ生活で何といっても恋しいのが温泉です。温泉旅館で湯三昧するのも、駅前の日帰り温泉でひとっ風呂浴びるのも、どちらもうれしいもの。滞在中は温泉を存分に楽しみたいと思います。温泉と言えば、今年の春に日本で公開され話題となった映画に「湯道」があります。銭湯が舞台となっており、興味深いのは、風呂の入り方や作法を華道や茶道に倣って「湯道」とし、日本ならではの文化として深く掘り下げているところ。大衆文化のイメージですが、入浴方法や銭湯のしつらえなどに定型があるのは、確かに伝統文化に通じるとも言えます。
さて、温泉を歌った歌謡曲は多くありますが、私がまず思い浮かべるのはザ・ドリフターズの「いい湯だな」(1967年)です。実はこの曲、作詞が永 六輔、作曲がいずみたくのコンビ。男性コーラスユニットのデューク・エイセスが47都道府県を題材にしたご当地ソングを歌う、東芝レコードの「にほんのうた」シリーズの群馬県バージョンがオリジナルです。ザ・ドリフターズがデビュー曲「ズッコケちゃん」のレコードB面としてカバーし、後に伝説の番組「8時だョ!全員集合」エンディング曲となって大ヒットしました。
1966年発売のデューク・エイセスが歌う「いい湯だな」の歌詞に出てくるのが全て上州の湯(草津、伊香保、万座、水上)なのに対し、ザ・ドリフターズのバージョンは全国の名湯、北国は登別、上州の草津、紀州の白浜、そして南国は別府と置き換えられています。サブタイトルにビバノン・ロックとある通り、アップビートで「ババンババンバンバン」に「アービバノンノン」や「アハハン」などの合いの手文句が愉快です。
話は戻って「にほんのうた」シリーズですが、その曲目を眺めてみるとなかなか面白いタイトルがあります。たとえば、山形県は「歌おう滑ろう」。雪国ならではのスキー・リゾートがモチーフでしょうか。神奈川県の「港のためいき」は横浜港の夜景が思い浮かびました。静岡県は「茶、茶、茶」。なるほど、チャチャチャのリズムでお茶所の静岡をアピールしています。徳島県の「踊り疲れて」は阿波踊りですね。ひねりがあるなと感じたのは、山梨県の「ロッコン・ロール」。富士登山の修行の際に唱える、六根清浄からだと推測できますが、それをロックン・ロールとかけているのがユニークです。
タイトルを見る限り、温泉をテーマにしているのは群馬県だけのようです。実は群馬の温泉は行ったことがないので、ぜひいつかオリジナルの「いい湯だな」で歌われている4つの温泉郷を制覇してみたいものです。