晴歌雨聴 ~ニッポンの歌を探して Vol.22
日本のポピュラーカルチャー、特に1960-70年代の音楽について研究する坂元小夜さんが、日本歌謡曲の世界を案内します。
第22回 おニャン子クラブ
前回、「花の82年組」の代表スターである中森明菜について書きました。当時のアイドルたちが築き上げた文化は歌謡界だけでなく、80年代の日本のポップカルチャーに大きな影響を及ぼしました。そして、アイドルの向かい側にいるファンからの影響もまた、アイドル側に反映され、両者で時代のムードを作っていたと言えます。
ファンにとってのアイドル像は、彼らの生活様式や同時代の流行などからも影響を受けます。当時の日本でどんなことがあったのか調べてみると、特に1983年には歴史的な出来事がたくさん見られました。任天堂の「ファミリーコンピュータ」の発売、NHK連続テレビ小説「おしん」やフジテレビ系列の深夜番組「オールナイトフジ」の放送スタート、東京ディズニーランドの開園などです。これらの文化イベントを経験したファンの求めるものがアイドル像にも反映される中、その一例として誕生したのがおニャン子クラブです。
前述の「オールナイトフジ」の夕方版として同じ制作スタッフにより85年に開始された「夕やけニャンニャン」。番組アシスタントとして、「どこにでもいそう」、「ちょっと気になる、かわいい同級生」というコンセプトから、女子高生を中心としたメンバーで結成されました。デビュー曲「セーラー服を脱がさないで」は大ヒットとなり、一世を風靡(ふうび)します。
「夕やけニャンニャン」はクイズやゲーム企画を盛り込んだ公開生放送の番組で、人気絶頂だったとんねるずがレギュラー出演をしていました。その観客の大半は男子高校生や大学生。番組は2年後の1987年に終了してしまい、おニャン子クラブも同時に解散となりました。現在でも活躍しているのは、工藤静香、渡辺満里奈、渡辺美奈代、国生さゆりなどです。
さて、「セーラー服を脱がさないで」を作詞した秋元 康ですが、ご存じAKB48の生みの親でもあります。AKB48は2005年のデビューですから、おニャン子クラブ誕生からちょうど20年経っていることになります。親近感のあるアイドル像を目指したことなど共通点は多く、いわばおニャン子クラブはテレビの時代、AKB48はインターネットの時代に登場した身近なアイドルです。「セーラー服を脱がさないで」の歌詞はかなり大胆ですが、同じテーマがAKB48の初期の楽曲「スカート、ひらり」に控えめに受け継がれています。こうして、アイドルを通して時代を俯瞰するのも興味深いですね。