晴歌雨聴 ~ニッポンの歌を探して Vol.20
日本のポピュラーカルチャー、特に1960-70年代の音楽について研究する坂元小夜さんが、日本歌謡曲の世界を案内します。
第20回 ベンチャーズ歌謡
60年代に一世を風靡したアメリカのインストゥルメンタル・バンド、ザ・ベンチャーズ(以下ベンチャーズ)が結成されたのはワシントン州タコマであることは知っていましたか? 1958年のことです。サーフ・ミュージックを代表する独特なギター奏法は日本でも「テケテケ」と呼ばれ、ベンチャーズの代名詞となり、エレキブームを巻き起こしました。
そんなベンチャーズですが、実は日本の歌手に多くの楽曲を提供しています。しかも、いずれもいわゆるアメリカンなロックではなく、60〜70年代の歌謡曲。きっかけは、1966年に加山雄三の「君といつまでも」のカバーを日本で発表し、大ヒットしたことです。「Ginza Lights」として彼らが作った曲に永 六輔が詩を付け、1966年に和泉雅子と山内 賢のデュエット曲として発売された「二人の銀座」がベンチャーズ歌謡の始まりでした。
これらの人気ぶりを受け、その後も奥村チヨの「北国の青い空」(1967年)を発表。1968年にギタリストのジェリー・マギーが加入すると、より本格的に日本をテーマにした楽曲を作り始め、渚ゆう子の「京都の恋」(1970年)、欧陽菲菲の「雨の御堂筋」(1971年)など、次々とヒット曲が生み出されました。その曲名からはベンチャーズの楽曲とは想像しにくいですが、実際に曲を聴いてみると、やはりその独特のリズムやメロディーは健在で、意外にも日本の歌謡曲として面白い仕上がりになっています。
私のおすすめは牧葉ユミの「回転木馬」(1972年)です。いわゆる演歌調の歌謡曲ではなく、軽快なリズムと牧葉の清々しい歌声が魅力。この曲は、山口百恵がテレビのオーディション番組「スター誕生!」で歌って合格したことでも有名です。ちなみに百恵と同時代の大人気アイドル、桜田淳子も同じ番組で牧葉の「見知らぬ世界」を歌って合格し、芸能界入りしています。牧葉は活動約5年であっさり芸能界を引退しますが、彼女の曲が当時の二大スターをデビューに導いたのは興味深いですね。
さて、ギタリストのマギーは、2017年にベンチャーズとして来日公演をした際に体調を崩して以降、バンドを離れ、ステージから遠ざかっていたものの、2019年10月にソロとして再来日しました。ところが、日本ツアー中に心臓発作で倒れ、そのまま亡くなってしまいます。親日家で、日本の歌謡曲に貢献したアメリカのギタリストが、日本の地で帰らぬ人となるとは、なんの因果でしょうか。20曲ほどあるベンチャーズ歌謡曲はベスト盤が出ており、現在はYouTubeなどでも親しまれています。興味があればぜひ聴き比べてみてください。