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メーシーズ (旧ボン・マルシェ)

メーシーズ (旧ボン・マルシェ)
300 Pine St., Seattle

3rd Ave側の角には今もThe Bon Marcheの文字が残る

シアトル・ダウンタウンにあるメーシーズは、もとはボン・ マルシェというシアトルの老舗百貨店だった。創業は1890年。ドイツからの移民、エドワード・ノードフ氏が、パリで働いていた時に名高いボン・マルシェ百貨店の品ぞろえとサービスに感銘を受け、いつか自分も同じような店を開こうと大志を抱いたのが始まり。ノードフ氏は渡米後、シカゴで働いて資金を貯め、年若い妻と幼い子どもと共に、シアトル大火の翌年、全力を挙げて再建中だったこの町に移住して、小さな乾物店を開いた。早朝から遅くまでよく働いた甲斐あって夫妻の店は繁盛し、数年後には2nd Ave.に念願の百貨店を開くまでになったのだという。

アールデコの意匠が顕著な4th Ave側の入り口

その後、現在の場所に移転し、何度か大手資本に買収されたが、20世紀を通してボン・マルシェの名は残り、米国北西部一帯で40店舗ほどを擁するブランドとなって、シアトル市民には「ボン」の愛称で何世代にもわたって愛された。2005年、ついに全米に展開するブランド、メーシーズに統合された後も、ボンの本店だったこのダウンタウン店の入り口の上には「ザ・ボン・マルシェ」の名が残され、今に至っている。

2nd Aveにあった最初のボンマルシェ 写真提供<a href=httpwwwpdxhistorycom target= blank rel=noopener noreferrer>wwwpdxhistorycom<a>

このビルの完成は1928年で、当然ながら当時大流行したアールデコ様式が取り入れられている。設計は、エクスチェンジ・ビルも手掛けたシアトルの著名建築家、ジョン・グラハム。もとは4階建てで、後に3階分が上に追加された。現在は少々くすんだ印象ではあるが、よく見ると細部に優雅な意匠がほどこされている。まず目に付くのは、周りにぐるりとめぐらされた金属製のキャノピーの装飾。写実的なヒラメやタツノオトシゴなどの海の生物と植物を組み合わせたデザインは、「マルシェ(市場)」の活気を表現しているのだろう。店内にも1920年代の思想を感じさせる装飾がいくつも残っている。

4階建てだった頃のボンマルシェ 写真提供<a href=httpwwwpdxhistorycom target= blank rel=noopener noreferrer>wwwpdxhistorycom<a>

ビルの上層6階分にアマゾンのオフィスが入居する予定で、現在改装工事が進行中。そのため窓に板張りがされており、どこか物悲しいが、今夏にはオフィスが完成してアマゾニアンたちがここで働き始めるそうだ。飛ぶ鳥を落とす勢いの巨大Eコマース企業が老舗百貨店の上階に入居するというのも皮肉なめぐり合わせではあるが、誕生から90年を迎えるこのビルに新しいエネルギーが吹き込まれて、この一画にジャズ・エイジの華やかさがよみがえるのかもしれない。

ヒラメとタツノオトシゴが並ぶ庇の飾り

参考資料:www.historylink.org

[たてもの物語]

 

Tomozo
シアトル生活7 年めの英日翻訳者。 livinginnw.blogspot.com 協力:シアトル建築財団(Seattle Architecture Foundation/SAF) シアトルの建築やデザインと人びとを結ぶことを目的に活動する非営利団体SAFは、シアトルの建てものを巡る楽しいツアーを常時開催中(英語のみ)。本コラムはツアーで紹介されるエピソードを中心に、SAFのエキスパートの協力を得ています。詳細はseattlearchitecture.orgへ。