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まごころサービス〜みきこのシリメツ、ハタメーワク

「どうなさいましたか?」

父の遺した、築60年の家のトイレが詰まったので、郵便受けに入っていた宣伝マグネットのひとつに電話した時のことである。落ち着いた声の、中年かなと思われる受付女性の第一声に救われた感じがした。

実はその前日、別のマグネットの会社に電話して夕方来てくれた人と、この朝イチで高圧洗浄することにしてあったのをキャンセルしたのだ。

日本で配管掃除などいくらかかるかわからないが、さすがに13万円は高いと思い、いろいろ聞いても実際見てみないとわからないとのこと。でも、速攻やってくれそうだったので、13万でオッケーしたところだった。

昨日やってもらえるんだったら、あの「乗り」で発注してしまったかもしれない。でも、ひと晩トイレが使えずに不便したことを考えたら、「ほかに聞いてみてもいいんじゃないの?」という、持ち前のずうずうしさ、いや、プラクティカルなのが勝ってしまった。アメリカに44年もいるとこうなるもんだ、などと自分自身に言い訳をしながら。私の中にもうひとりの私がいて、たまに会話をすることがあるのだ。

2つ目のマグネットの会社の、朝10時に来てくれた職人は、プロっぽい。庭にある5個のマンホール(マス)のうち真ん中のをまず開けて、「ちょっとキッチンの水流してもらえる?」。最後のマスを開けて、「流れて来ていないね」と言うが、不思議と詰まったトイレの側のマスは開けてもいない。昨日の人は、そこだけを開けて「あっ、詰まってるね!」。当たり前だよね。

私が子どもの頃はくみ取りに来ていた浄化槽だが、「まず高圧洗浄をして、うまくいかなかったら、ぜーんぶの配管をやり直すことになるかもしれない」と昨日の人と同じことを言った。高圧洗浄は7、8万円でできるけれど配管全部となると200万くらいかかってしまう。「とにかく、やってみましょう」とスタートして20分ほど経過。

「スポッ!」と音がしたら、「今の聞こえた? 抜けたっ!」とうれしそうな顔。一緒に喜んでくれたのがありがたい。

会社に仕事終了の報告をし、確認のために携帯電話を渡された。

「あの、コメントがあるのですが」と聞かれもしないことを言ってしまうのが、アメリカ長期滞在経験者の私である。電話の開口一番の「どうなさいました?」と、修理する職人さんの判断の的確さと無駄のない仕事に感謝していると伝えた。

社名もまさに「まごころ水道サービス」。名実共に。ちょっと高かったけれど。

天海 幹子
東京都出身。2000年から2005年まで姉妹紙『北米報知』ゼネラル・マネジャー兼編集長。「静かな戦士たち」、「太平洋(うみ)を渡って」などの連載を執筆。2020年11月に日本に帰国。同年、著書『ゼッケン67番のGちゃん』を刊行。